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トップページ > 記者会見 > 第70回ヴェネチア国際映画祭『風立ちぬ』公式記者会見

第70回ヴェネチア国際映画祭
『風立ちぬ』公式記者会見

2013-09-10 更新

星野康二(スタジオジブリ代表取締役社長)、瀧本美織(ヴォイスキャスト)

風立ちぬkazetachinu

配給:東宝
全国東宝系大ヒット公開中
© 2013 二馬力・GNDHDDTK

 日本では現在もメガ・ヒット公開中の『風立ちぬ』。第70回ヴェネチア国際映画祭ではコンペティション部門に出品され、宮崎駿監督の引退も発表された公式記者会見では、スタジオジブリ代表取締役社長の星野康二と、ヒロイン・菜穂子の声を担当した女優・瀧本美織が出席した。

日本での成功についてお聞かせください。

星野康二: 最初に、宮崎駿さんからのメッセージをお伝えしたいです。「リドはとても好きな所です。ご招待いただきましたのに、参加できず残念です。皆さんにくれぐれもよろしくお伝えください」。
 今回の作品は、2008年の『崖の上のポニョ』から5年ぶりとなります。『崖の上のポニョ』が終わったすぐ後、2008年の終わりから宮崎さんは少しお休みになり、2010年に今回の作品の構想がまとまって、本格的に制作が開始しました。今回、日本では大変成功して、現在も興行が続いています。日本の観客の多くの方々は、それまでの宮崎さんの作品と違うということに、いろいろな意味でビックリもし感動もしていると思います。


今回、ジブリの作品としては初めて、実在の人物を扱いました。これほどの長編作品も初めてですね。

kazetachinu星野康二: 今回主人公となった飛行機設計技師・堀越二郎については、宮崎さんは随分昔から、それこそ若い頃から研究していた人物でした。だから、長い間彼の中で温めていたひとつのテーマだったわけです。実在の人物であり、1930年代の青春、難しい時代に生きた人という意味でも、宮崎さんにとってとても大事な存在でした。ただ、これをアニメーションにするということに関しては決断に時間がかかったのだと思います。プロデューサーの鈴木敏夫が「宮崎さん、これはやるべきだよ」と説得したのです。宮崎さんはアニメーションは子供のものと思っていたことが躊躇していた大きな理由だったと思いますが、鈴木は宮崎さんが堀越二郎のことを心にかけてずっと研究していることを知っていましたので、今回やるならぜひこの作品で、1930~1940年代という長い時代に挑戦してほしいと説得しました。ですから、これは大いなる挑戦の作品だったということができます。


本作はこれまでに比べると、とてもリアリスティックです。ファンタジーは夢の部分だけですね。歴史的な出来事も生々しく描かれていましたが、今回はリアリティを重視したのでしょうか。

星野康二: 歴史的な時間を追って、実際に起きたことをノンフィクションとして描くというのが、今回の試みでは決してありませんでした。主人公は堀越二郎という実在の人物をベースにし、一人の若者に光を当てるということが一番のチャレンジだったのです。ただし、彼が生きたのはどういう時代だったのかという、その背景は大事でした。震災、戦争があり、死病として結核もあった当時、どういう形でラブ・ストーリーが生まれていったのか、そういうことも全部含めて、一人の若者に焦点を当てた映画になったと言えます。


美織さん、ロマンチックな役柄でしたが、今回の役を演じるにあたって、どのように準備されましたか?

kazetachinu瀧本美織: Buon giorno! Piacere! Io sono Miori Takimoto.(こんにちは、初めまして! 私は瀧本美織です。)この挨拶がどうしても言いたかったんです(笑)。宮崎監督は世界中で愛されている方で、そんな遠い存在にお会いできるだけでいいと思っていたんですが、菜穂子さんの声に選んでいただいて全力でやりたいと思いました。昔の日本を舞台にしたお話で、私も知らない、生きたことのない時代でしたので、鈴木プロデューサーから勧められた昔の映画を見ました。吉永小百合さんの『キューポラのある街』という映画でした。昔の人は潔い生き方をしていたので、奈穂子さんにそういう感じを出してほしいと最初に言われ、私も覚悟の定まった声を魂を込めて演じました。


もう一人の主人公がイタリア人のカプローニで、彼へのオマージュがあったようにも思えました。また、最後にワインを飲むというアイデアはどこから生まれたのですか?

星野康二: カプローニさんのこと、カプローニ社という飛行機会社のことも、宮崎さんはずっと研究していました。やはり、とても意識していた存在だったと思います。有名な話で、スタジオジブリの「ジブリ」という名前はカプローニ社が作った飛行機の名前「ギブリ」から来ています。あと、『紅の豚』でも描いていましたが、やっぱり宮崎さん、飛行機が大好きなんです。イタリアが好きなんだと思います。
kazetachinu ワインの件ですが、実は宮崎さん、普段仕事をしているときはほとんど飲みません。ところが、たまに美味しいワインを飲むと、本当に嬉しそうになるんです。つまり、ワインの魅力をよくご存知なんだと思います。だから、あえて最後のシーンにワインを登場させるのは大切なことだったわけです。
 もう一つのエピソードで、吹き替えをしていた時なのですが、カストロプを演じたスティーブン・アルパートが緊張を和らげるためにワインを持ち込み、それを飲みながら吹き替えをしたということもありました。

瀧本美織: 私はその場にいなかったのですが、歌を歌うシーンで、最初はすごく緊張して上手く歌えなかったのが、ワインを飲んだらとても上手くなったという話を伺いました。


今作で特にターゲットとしている観客は?

星野康二: 観客ターゲットは、宮崎さんの場合は常に、目の前にいる人々全員だというのは間違いないと思います。特に今回は、今の時代、今の日本が抱えているいろいろな問題をみんなが分かっているわけです。2011年には震災がありました。景気も悪いです。日本は停滞しています。ですから、過去のことだけを語っているというよりは、映画の中で、この現在にどう向き合っていったらいいのかということを提起し、考えていると言えます。つまり、現在の私たち、特に若い人たちに向けた作品なのです。


主人公のヴォイスキャストとして、映画監督の庵野秀明さんを選んだ理由は?

星野康二: 声優を選ぶのは非常に大切なことでした。今回は特に、主人公に庵野秀明さん、ヒロインに瀧本美織さん、そしてカストルプ役にスティーブン・アルパートさん、この3人を起用したことはとても重要な選択だったことは間違いありません。特に庵野さんに関しては、彼も映画監督ですから、声優としてはプロフェッショナルじゃないわけですね。ただ、宮崎さんは庵野さんのことを30年くらい知っていますので、彼の人間性、彼の声、彼の生き方をそのまま役柄に吹き込んでくれればいいと考え、「演技しなくていい、君のままでいいんだ」と言って実際に吹替えをやってもらったところ、登場人物に深いリアリティを与える結果となりました。瀧本さんの場合も、とても若い方ですが、非常にしっとりした厚みのある声で昔の素敵な女性を演じてくれました。このお二人の演技は実に素晴らしかったと、監督とプロデューサーは言い切っています。


美織さん、奈穂子にはあなた自身が反映されていますか?

瀧本美織: オーデションで宮崎監督に声を聞いていただき、その場で「よろしく」とおっしゃっていただいたんですが、実は監督が考えていた声とは声質が違っていたらしいのです。オーデションでは資料もない状況でワン・シーンを演じたんですが、私も実際に奈穂子さんの映像を観ない状態ではイメージが掴めないでいました。ですが、アフレコの初日に画と合わせたら、「声が変わった! 奈穂子さんって、こういう喋り方をするんだね」と宮崎監督がおっしゃり、ここで奈穂子さんとして認めていただいた気がしました。自分でも意識していないところで声が変わりました。


自分の健康を犠牲にしてでも愛を貫こうとする女性の生き方をどう思われましたか?

kazetachinu瀧本美織: この映画を観て、それ以前に台本を読んだときにも思ったことですが、生きるのがとても辛い時代なのに、登場人物が皆、生き生きと生きている姿に何よりも心打たれました。同じ日本人として、とても勇気をもらいました。奈穂子さんの生き方は自分にはできないと思いますが、病気のことを悲しむよりも、二郎さんと一緒にいる時間を本当に大事にして、その幸せをかみしめていたところが印象的でした。


映画の中で、「創造的人生の持ち時間は10年だ」と繰り返し言っていましたが、宮崎監督の創造のピークであった10年はいつだったと、星野さんはお考えですか?

星野康二: 監督本人はその台詞に関して、「その通りに違いない」と言っていました。「だから、自分の場合はその10年間は随分前に終わったんだよ」と言って、はははと笑っていましたね。でも実際にどうなんだろうと思うと、『ハウルの動く城』(04)にしても『崖の上のポニョ』(08)にしても、今回の作品でもすごいエネルギーを感じさせるので、やっぱり宮崎さんは違う、まだまだ創造の泉は枯れていないというのが私の個人的な感想ではあります。


最後に、星野社長から特別なアナウンスがあります。

星野康二: 最後に発表があります。ヴェネチア映画祭には過去何度も招待していただきました。最初に申し上げたとおり、宮崎駿はリド島が大好きです。世界中に友人も多い宮崎駿ですので、この場で発表させていただきます。『風立ちぬ』を最後に、宮崎駿監督は引退することを決めました。来週本人による記者会見を東京で開きます。したがいまして、引退に関する質問は一切受けられないことをご了承ください。くれぐれも皆さんによろしくということです。以上です。


ファクトリー・ティータイム

 イタリアでもコアなアニメ・ファンだけでなく、広い層にその作品が愛されている宮崎駿監督の新作ということもあって期待は高く、プレス試写でも上映後は大きな拍手が贈られていた本作。アニメというよりも1本の映画として、宮崎駿が渾身の想いを込めて創り上げただろうことが伝わってくる作品だけに、世界初のニュースとして星野社長が宮崎駿監督の引退をこの記者会見の最後で告げたときにも、さほど驚きは感じず、むしろ腑に落ちた。映画祭での受賞は逃したものの、今後は世界各国で配給され、世界中の人々が最後の宮崎アニメを目にして様々な想いを抱くことだろう。

(取材・文:Maori Matsuura、写真:70th Venezia Film Festival official photos)



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