インタビュー・記者会見等、映画の“いま”をリポート!

Cinema Factory

Cinema Flash



舞台挨拶・イベント

トップページ > 舞台挨拶・イベント > 『キングメーカー 大統領を作った男』

『キングメーカー 大統領を作った男』公開記念トークイベント

2022-08-14 更新

真山 仁氏(小説家)×松崎健夫氏(映画評論家)

キングメーカー 大統領を作った男kingmaker ©2021 MegaboxJoongAng PLUS M & SEE AT FILM CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ツイン
シネマート新宿ほか全国順次公開中

 韓国が誇る名優ソル・ギョングと『パラサイト 半地下の家族』のイ・ソンギュンが共演し、第58回百想芸術大賞で最優秀男性演技賞、監督賞、男性助演賞の3冠受賞を果たした『キングメーカー 大統領を作った男』が、ついに日本公開! 本作公開を記念し、8月13日(土)にシネマート新宿にてトーイベントが実施され、当選率99パーセントを約束する、敏腕選挙コンサルタントを主人公に日本の選挙の裏側を描き話題となり、映像化もされた小説『当確師』(光文社文庫)の著者、真山 仁氏と映画評論家の松崎健夫氏をゲストに迎え、本作をより深く楽しむための解説が盛りだくさんのトークが繰り広げられた。


 この日の東京は、台風が近づくあいにくの天気だったが、劇場には多くの観客が来場し、大きな拍手に迎えられ、真山 仁氏、松崎健夫氏が登壇。真山氏は「お盆で台風が来ているし、6人くらいのお客様を前にトークをやるのかなと思っていたら、このように大勢の方がいらっしゃって」と驚きつつ、まずは本作について「選挙の小説を書き始めて、もう4、5年になるのですが、正直素晴らしすぎて恥ずかしくなるくらい良い映画でした。最初、本作が金大中(キム・デジュン)さんのことであることを知らないで見進めていたら、途中から気づいて、韓国独特の問題をはらみながら選挙の面白さと怖さがよく出ていましたね。政治に関心があるから面白いのではなくて、本作はどこまでも人間の夢をどう追うか、夢のために何を犠牲にするかがちゃんと描かれていて、だからこそ面白いし、だからこそ選挙というものが面白いんだなと思いました」と感想を熱弁。さらに「韓国はお隣の国ですが、知っているようで知らないことがたくさんあって、ともすると偏見みたいなものが先にたちますが、日本人は理屈でないところで感じ取れることがあると思う。日本のことを思うためには韓国映画を観るのがいいなといつも思っているのですが、日本の選挙や政治を考えるには、議員全員に見せたい映画ですよね」とコメント。

 続いて松崎氏が劇中のセリフを挙げ、「アリストテレスの“正義こそが社会の秩序だ”。対してその師匠のプラトンの“正しい目的のためなら手段は不問だ”。この二つの言葉は、本作のテーマをすごく良くついていると思うのですが」と問うと、真山氏は「政治家の人は必ず大義や正義を口にする。ウソではないのだが、そのために手段を選ぶか選ばないかで勝ち負けがでる。政治に善悪はなく、勝ち負けしかない、と取材時によく聞きますが、その大義を手にするためには、まず政治家になることが大事なんだ、となるんです。間違ってはいないのだけど、有権者の立場から考えるとどうかと思いますよね」と答え、「マックス・ウェーバーの著書には、政治は暴力だ。暴力を管理するために政治家がいる、とあります。多くの人は民主主義が政治だと思っているけれど、民主主義は暴力を鎮圧したあとにしかできない。この作品を観ているとよく分かります」と解説。松崎氏が「善悪が灰色で、より黒でなければ選挙のためにはいいのではないか、ということかもしれませんが、実際の韓国大統領選や大統領になった人たちの人生を見ると、因果応報というか、真っ当に人生を終わった方がいない」と指摘すると、「だいたい逮捕されるか、自殺するか、あるいは暗殺されるか。実際、この間退任したばかりの文在寅さんを除くと、金大中さんだけが大統領になって逮捕されていない。でも実は過去に拉致されて、その後死刑判決も受けているので、ある意味全員国家権力に拘束されている。それだけ、韓国における大統領の権力がすごいということ」と韓国で取材も行っている真山氏から本作の背景にかかわるいろいろ々な解説が続いた。

 また、本作でイ・ソンギュンが演じた「影」といわれ表には出ない選挙参謀については、「日本にも選挙プロデューサー業をやっている人はいます。まさにああいう存在で、自分が担ぐ人のために人もお金も用意するが、自分は下がって栄光を手にしない、影の存在がプロデューサー」と真山氏。「でも人って成功すると俺がやった、っていいたくなるところ。劇中それを殺して自分の夢を託した彼(チャンデ)はがんばっていたと思う。しかし人間の欲望として、いや俺のおかげだろう、手を汚さないボスはずるい人と思い始めるもの。イ・ソンギュンはその“影”の存在である人間の機微をものすごく上手く演じていたと思う。見ていると気の毒で気の毒で仕方がなかった(笑)」とすっかり感情移入したそうだ。

 一方、ソル・ギョングについては、これまでも力道山から殺人鬼まで幅広い役柄を演じてきた名優だが、松崎氏からの「大統領の風格が見えたのがすごい」という言葉を受け、真山氏も「政治家って言葉は信用できないのに、なぜかこの人が演説をすると信じてしまう、というのがあるのですが、それを全部出してました。ひとたび民衆の前に立って発言すると人を惹きつける。このまま大統領選に出ればいいのに!」と絶賛。さらに「これまでの彼の出演作では、あまり知的な役柄のイメージがなくて、自分の感性と本能で生きる人だったが、ここまで懐の深い得体の知れなさを出せるというのは……この人は本当に怪物です!」と俳優ソル・ギョングの凄さで盛り上がった。

 さらに、選挙をテーマにした『当確師』『当確師 十二歳の革命』の小説を執筆している真山氏から見て、本作の描写はどう感じたかを問われると「ひとつは韓国の国民性、国民の政治に対する関心度が明らかに韓国のほうが強烈で、強烈なところのほうが仕掛けがしやすい面がある。日本の場合は、ずっと誰がなっても一緒だ、選挙には行かないし、与党に協力したほうが得だし、という状況で、そこから波を起こすことはかなり大変。小説の中で一番やらなきゃいけないことは、波を起こすこと。楽勝の人に危機感を与えて、突然自分がピンチになって慌てふためくところにチャンスがある、ということをやらなければならないんです。この『キングメーカー』の場合は、もう選挙自体が大変なので、この政治環境は羨ましいなと思いました」と率直な思いを語る。


kingmaker

 その一方で「もう一つ大事なのは、選挙って当選が終わりではない、政治家はそこから始まるわけです。ですので、よくあるネガティブ・キャンペーンをやると、結果的にそれで勝った人というのは、本当に汚い手で政治家になったよね、とあまり期待されなくなるもの。どうやって勝ったか、というのが意外に大事」と解説。そして現在「小説宝石」で3作目を連載中とのことで、「それが与党の総裁選の話。映画でも総裁選の場面がでてきますが、ヒリヒリするなぁと。でも私はこれを観てしまった以上、私はこの手法を使えないんだ、観なきゃよかったと思いました(笑)」と意外な話も。すると松崎氏から小説『当確師』より、「傲慢な人が、自分を傲慢だと自覚できないのと一緒で、誠実な人も自覚なんてしません。だからこそ誠実な人柄が輝くんです」という、松崎氏が読んでドキッとした一節が紹介されると、真山氏は「いいこと言ってますね~」と返す一幕も。

 最後に真山氏は、「近年、政治に無関心ではいられなくなっている。為替が安くなり、遠い国だけれど戦争が起きたり、国内不安があったりすると、それを変えられるのは残念ながらやはり政治。自分たちもちょっとだけ政治に関心をもたなければ、という時は来ている。そういう意味でも良いタイミングの映画だと思います」と熱く語り、本作のトークイベントが締めくくられた。


真山 仁(まやま・じん):  小説家。1962年大阪府生まれ。同志社大学卒、新聞記者、フリーライターを経て2004年『ハゲタカ』でデビュー。同シリーズはドラマ・映画化され話題になった。
 主な近著に、日本最強の当選請負人が主人公、選挙の裏側にスポットを当てた『当確師』『当確師 十二歳の革命』、民主主義は国を豊かにし、人を幸せにするかを問う『プリンス』、医療過誤訴訟を扱った『レインメーカー』など、幅広い社会問題を現代に問う作品を発表している。最新刊は、貧困、基地、軍用地主など「沖縄の闇」に踏み込んだ、冨永検事シリーズ3作目となる『墜落』。

■ 公式HPhttp://www.mayamajin.jp (外部サイト)


「当確師」 真山仁/著 光文社文庫:  来年秋に行われる次期市長選で、圧勝が確実視される現職を倒して欲しい――。当選確率99%を約束する選挙コンサルタント・聖達磨の元に、莫大な報酬と共に無謀な依頼が持ち込まれた。候補者の選定から任された聖は、首都機能補完都市にも選ばれた高天市に向かう。この勝負、勝ち目はあるのか!? 人間臭い選挙戦をリアルに描いた傑作ポリティカル・フィクション!
  定価:704円(税込み)ISBN:978-4-334-79341-8


kingmaker


(オフィシャル素材提供)



関連記事

Page Top