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トップページ > インタビュー > 『パートナーズ』浅利陽介 オフィシャル・インタビュー

浅利陽介 オフィシャル・インタビュー

2010-10-10 更新

盲導犬たちと過ごすことで、僕はシンプルに「好きになる」ということを信じられると思えました


パートナーズ
カメラマン:奥野和彦
スタイリスト:鳥丸由紀子(erg)
ヘアメイク:後藤憲子
衣装協力:フーディシャツ、デニム、ブーツ(すべて インディアン東京)

浅利陽介

 1987年8月14日生まれ、東京都出身。92年TVCMでデビュー。幼少の頃より舞台、映画、ドラマに出演。主な出演作としては、舞台「レ・ミゼラブル」、大河ドラマ「元禄繚乱」「北条時宗」「新撰組!」(NHK)「永遠の子」(NTV系)などがあり、中でも人気シリーズであった「キッズ・ウォー」(TBS系)で赤髪の少年を演じ、世代を越えて注目を浴びる。映画『いま、会いにゆきます』(04)、『ALWAYS続・三丁目の夕日』(07)などにも出演し幅広い演技力に定評があり実力派としての呼び声が高い。近作では、「コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~」シリーズ(CX系)へレギュラー出演し、映画では『手のひらの幸せ』(10)で初主演を果たした。


配給:東京テアトル
11月6日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国一斉ロードショー!
http://partners-movie.com/

 新たな盲導犬の愛の物語『パートナーズ』。盲導犬訓練士として奮闘し、心の成長を遂げていく青年を演じた浅利陽介が、犬たちとともに挑んだ撮影の日々で得た貴重な経験を語った。

『パートナーズ』では盲導犬の訓練士役を演じていますが、これまで(撮影以前)盲導犬のことに興味を持ち、なにか勉強をしたとかありましたか?

 この映画のお話を頂くまでは、恥ずかしいですが、盲導犬についての知識は、ほとんどありませんでした。盲導犬になる犬種としてはラブラトールやゴールデンが多いことぐらいしか知りませんでしたね。もちろん、きちんとした盲導犬にするべく訓練する人がいるんだろうな、とは思ってはいましたが。だから撮影前に日本盲導犬協会が運営している、神奈川県訓練センター(訓練士の学校)まで足を運び、盲導犬候補が1歳になるまでは、ボランティアのパピーウォーカーと呼ばれる家庭で育てられるとか、盲導犬の訓練士になるための学校があるなんていう、そんな基本的なことからしっかりと勉強、リサーチをさせていただきました。

訓練センターでは、現役の訓練士たちにもリサーチをしましたか?

 はい。させていただきました。撮影前の約2週間を訓練センターで過ごし、訓練士たちと同じ訓練を受けたんです。毎朝6時に起床して、まず犬舎に行き犬たちに排泄をさせ、それを掃除して、その後はユーザーさんの朝食の準備(主に配膳)に入ります。その後は、訓練士たちと一緒に授業を受けました。歩行訓練からリードさばき……映画の中で描かれていることすべてを、やりましたね。そして、センターに合宿している盲導犬ユーザーさんたちにも、いろいろとお話をうかがいました。

訓練センターでのリサーチの日々は、かなり密度の濃いものだったとうかがえますね。

 技術を学んだだけではなく、盲導犬や訓練士の方々、そして盲導犬ユーザーの方々と共に生活し、触れ合う。そういう直接的なコミュニケーションを取れたことで、文字では決して知りえないことまで学び、理解を深められたと思っています。彼らには、とにかくひと言「スゴイ!!」と、感動させられことばかりで、僕なんて、まだまだダメだなぁ、甘いなぁって(笑)。

どんなことに感動させられたんですか?

 まず盲導犬のことからお話しすれば、彼ら(盲導犬)は、盲導犬として仕事をする時と、そうではないときの自分自身のメリハリをきちんとつけられるんです。ハーネス(盲導犬が体につける白い胴輪)を着けている最中は、仕事中であると強く意識し盲導犬として生きる。ハーネスを外したら普通の犬同様に、思い切り甘えるんです。つまり自分の中の厳しい部分と、甘える部分を意識してちゃんと持っているということですよね。これって、簡単に言えば、盲導犬というのは、きちんと自分というものを持っているということじゃないですか。ブレていないんですよ、生き方が。僕自身、犬好きで、生まれた頃から犬を飼っていましたけど、この感じはペット犬にはない部分だって思いましたし、ひとりの人間として盲導犬と向き合ってみても、なんか自分の背筋が伸びる思いがしました。
 それから盲導犬訓練士の皆さんですが、この方たちもすごい意思を持っていますね。犬は「自分の主人の言うことだけは聞く」と「よく言われますけど、盲導犬はそれではダメなんですよ。どんな人の言うことも聞き、どんな人にも愛情を与えられ、どんな人とも一心同体になれる犬=盲導犬を、訓練士は作らなければいけない。だから、彼ら訓練士たちは、盲導犬と適切な距離感を保つことを常に意識しているんです。愛情を注ぐ時、厳しくする時の切り替えが素晴らしいです。犬が間違ったことをすれば、「NO!」と厳しく言い放つ。愛とか優しさとか言葉にするのは簡単ですけど、その言葉を裏打ちしているのは、厳しさでもあるということを、こうした訓練士たちの姿を見て思い知らされました。同時にもちろん、訓練士役を演じるにあたって、訓練士とはどうあるべきなのかという部分を、この姿勢からこそ知り得たと思います。というのも僕自身、人に対して「NO!」と言うのが苦手なほうなので、自分も早く、あんな風に「NO!」と言える人間になれればいいなって。やっぱり心を鍛えないと、なんですよね。

 そういう意味で、盲導犬ユーザーの方々のお話は、心打たれるものがあり、それは衝撃的ですらありました。皆さん、本当に強い。心が強いんです。鍛えられているんですよ。あるひとりの男性ですが、彼は離婚をし、妻や子供と離れ、一人になって訓練センターにやって来たって言っていましたね。20代の頃は、まだ視力もあったそうですが、今では全盲になり、盲導犬とともに新しい一歩を踏み出そうと決めたそうです。その決意たるや、僕には想像もつかない強さがあると……。常に前を見て生きていく力、新しい一歩を踏み出す力があります。やっぱり、心が強くなくちゃダメですね。

お話しをうかがっていると、映画の中で演じた19歳の小山内剛のように、浅利さん自身も、盲導犬と関わることで、心の成長を遂げたとは言えませんか?

 小山内剛って、すごい素直で真面目に一歩、一歩進んでいくなぁって感じていたんですよ。僕自身は、あんなに素直で真面目でもないから(笑)、なんでこんなに素直になれるんだろう?って考えたら、たぶん、向き合った相手が「盲導犬」という犬だったからってこともあると思いますよ。
 盲導犬との関係って、ペット犬より密接ですしね。もちろん、相手は犬なんだから、言葉によるコミュニケーションなんてできないんだけど、だからこそ逆に愛情をストレートに感じられるっていうか。好きになるっていうこと、身も心も傍にいてあげるっていうのかな……そういうことが、心の成長にも繋がるというか。この映画の最大のメッセージでもあるんですけど、自分と向き合う誰かを、何かをまず好きになる。そしてその気持ちを伝え続けることで、そうした愛は自分にも返ってくるってこと。あまりにまっすぐで、シンプルなメッセージなんだけど、これは人として生きていく上で、もっとも大切なことではないでしょうか。でも、人間同士の関係の中では、いろいろ複雑なこともあって、こういうシンプルなことこそ、忘れてしまうし、信じることも難しくなる。そういう意味では、この映画で盲導犬たちと過ごすことでこそ、僕はシンプルに「好きになる」ということを信じたいし、信じられるって思えました。犬たちに教えてもらったというか……僕も成長したのかな(笑)。

演じた小山内剛は、浅利さんより少し年下ではありますが(浅利は現在23歳)、彼の未来に絶望している宙ぶらりんな感じとか、心理状態をどのように理解しました?

 世代で括ることはできないし、人それぞれだとは思いますが、僕は剛の気持ちは、手に取るように分かりましたよ。僕だって、どこか宙ぶらりんな感じもするし、同世代の人にも剛のように挫折して、何をしていいのかわからなくて、もがき苦しみながら、毎日「辛い、辛い」って生きている人は、いっぱいいますから。実際、僕自身、演じた剛の年齢の時(19歳)、すごい辛い時期だったんです。子供の頃から芝居というものをやってきて、これは本当に自分のやりたいことなのか?って、大きな壁にぶち当たったんですよ。自分の中で、ちゃんと自分がやりたいことを見つけたいと思えば思うほど、辛くて、苦しくて……。でも、今はどうにか、その壁も乗り越えた感じがしているんですけどね。
 やっぱり今は、役者でいられることが楽しいし、こういう剛のような役を演じることで、そういう過去の辛い自分を表に出して、昇華することもできるわけだから、ありがたくもありますしね。だから、この映画の中の小山内剛は、かつての自分を思い出し、自分の中にあった溜まったものを吐き出したというものがあったんでしょうね。改めて考えると、きっとそうなのだと思います。

主役の小山内剛のそうしたキャラクター設定や、物語の導入部分の展開などは、これまでの、いわゆる盲導犬を描いた映画とは一線を画す作品ですよね?

 まるで違いますよね。脚本をいただいて、読み始めてすぐでしたけど、その意外性には本当に驚くものがありました。物語の冒頭は、盲導犬どころか犬とはまったく関係ないところから始まりますし、オープニングにはあまりふさわしいとは思えない人の死もある……「これはなんだ!」って思いました。実は僕、これまで1本も盲導犬の映画を見ていないんです。僕は生まれた時から高校卒業時まで犬と一緒に育ってきましたし、大の犬好きでもありますから、犬が出てくる……しかも盲導犬……と聞いただけで、感動は必至、泣かされるって思えて、見ていないのではなく、見ることができなかったという言い方のほうが正しいですね。犬で泣くのは辛いし嫌なんです(笑)。

犬は絶対に飼い主より先に死んでしまいますし……。犬との悲しい別れも経験しましたか?

 それが、これは不思議な話なんですけど、僕は一度も愛犬を看取ったことがないんですよ。これまで飼った犬は2匹なんですけど、2匹とも突然、本当に忽然と消えてしまったんです。なんか、最期に近くなると、どこかへ行っちゃうんです。生まれてから小学3年生になる頃まではゴンタ、小学3年生から高校3年生も終わるころまではランディという犬(ともに雑種)を飼っていたんですけどね。なぜか、2匹とも静かに、いつの間にか消えてしまったんです。まぁ、寂しい想いはしましたけど、不思議な感覚のほうが強かったですね。

今回映画で共演した盲導犬たちも、今では恋しくないですか?

 ヘレナとホタルという訓練中の2匹と共演したんですけど、今でも撮影時のことを思い出すと、恋しいという気持ちは当然あるんですが、寂しいとか恋しいとかいうよりも、すごい女優さんと共演した後のような存在感を僕の中に残している。という感覚のほうが強いんですよ。

ということは、犬との共演は人間以上のものがあったと?

 もう、犬に感謝、感謝って感じですね。なんの問題も苦労もなかったんです。僕は、ヘレナとホタルに導かれていました。犬たちは訓練の一貫として撮影に入ってくれたんですけど、現場の空気感を瞬時に読み取ってしまう、あの感受性の強さには驚くものがありました。ホタルは好奇心旺盛で、なんに対しても興味を抱いて一直線にやり抜くタイプ。対してヘレナは、力を入れる時と抜く時のタイミングを、絶妙と言わんばかりに心得ていて、大物ベテラン女優級の風格もありました。だって撮影が開始され、そう日も経っていない頃から、「本番!」の声がかかると、瞬時に表情を変え演技に入っちゃうんですから。もう、やられたな、って感じでしたよ(笑)。


(取材・文:新村千穂)


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