インタビュー・記者会見等、映画の“いま”をリポート!

Cinema Factory

Cinema Flash





広告募集中

このサイトをご覧になるには、Windows Media Playerが必要です。
Windows Madia Player ダウンロード
Windows Media Playerをダウンロードする

記者会見

トップページ > 記者会見 > 『アラトリステ』来日記者会見

来日記者会見

2008-12-20 更新

ヴィゴ・モーテンセン

アラトリステ

配給:アートポート
シャンテ シネほか全国順次ロードショー中
(C)Estudios Picasso / Origen PC / NBC Universal Global Networks Espana 2006

 7つの海を支配していたといわれる黄金時代から凋落が始まりかけていた17世紀スペインを舞台に、金や名誉より友情と愛のために闘った孤高の剣士の波乱に満ちた日々を描いたスペイン映画『アラトリステ』。架空の人物ながら、全編スペイン語で挑んだヴィゴ・モーテンセンが2年ぶりに来日、セルバンテス文化センターでの記者会見に出席した。

まずはご挨拶をお願いいたします。

 (日本語で)こんにちは。(スペイン語で)ブエノス・タルデス。(スペイン語と英語で)まずはセルバンテス文化センターの皆様、温かく歓迎してくださり、本当にありがとうございます。また記者の皆様、大勢いらしてくださって感謝いたします。

ヴィゴさんは何度も来日されています。いらしたばかりではありますが、久々の日本はいかがですか?

 まだ、来たばかりなのでね(笑)。着いたばかりなので、起きているのか寝ているか、夢を見ているのか、ちょっと分からないような状態だよ。とにかく、日本の皆さんとは世界中でお会いする。本当にありがたいことだが、写真の展示会だとか詩の朗読会、世界各地で行われるプレミアにもお越しいただいている。遠いアイスランドまで来てくださる方たちもいる。だから、出来る時には私のほうが日本に来るのは当然のことだね。日本の多くのファンの皆さんが私の映画をご覧くださって、とてもありがたいと思っているんだ。

劇中、マリアに首飾りをプレゼントするシーンが素敵でしたが、ヴィゴさんご自身、女性にとっておきのプレゼントをした経験がありましたら教えてください。

 それはプライベートなことなので、ちょっとお話しすることはできないな……。ただ、あれが美しいシーンであることは同感だよ。映画の中では、シーンによっては撮影、セット、照明、衣装など全てがうまくいく幸運な瞬間というものがある。ただ、ああいうシーンではつまるところ、相手役の役者にかかっている場合が非常に大きいものだ。その点、マリア役を演じていたアリアドナ・ヒルは本当に素晴らしい女優で、特別な演技を見せてくれた。あのシークエンスでは特にね。あの二人の関係は、演じている私が観ても心打たれたよ。なんとか二人が一緒になってほしいと思ったね。でもお互いに意地を張り合って、なかなか本心を言わなかったりして、ドラマとしてはとても興味深いものがあるが、観ていて心が痛むシーンではある。役者は相手の俳優によって演技がすごく変わるものだが、彼女はこちらにさまざまなものを与えてくれる人だったので楽に演じることができた。

今回もイニゴに対してそうだったように、人を見守る役が多いと思いますが、ご自身の息子さんに対してはどのような接し方をされているのですか?

 (日本語にじっと耳を傾けていて)……息子の話? 大体分かったよ(笑)。幸運なことだが、息子とはとっても良い関係にある。私たちの関係は、この映画のアラトリステと養子のイニゴとの関係にとてもよく似ていると思う。というのは、アラトリステは息子にいろいろ教えるわけだけど、最終的には息子から教えられるね。私も息子の面倒を見ていると、息子に対してどういう風に話すべきか振る舞うべきかなどということを、彼から教えられるときがよくある。
この映画の中にはさまざまな物語が含まれているが、特にこうした強い絆について描かれていると思う。そこには個々人の誇り、人民の誇り、イベリア半島の誇りというものも関わっている。
ところで、私の息子は日本が大好きなんだ。私も先ほどのように日本語が少しは分かるが、息子のほうはかなり分かって話も出来るし、書いたり読んだりもできる。私と一緒に日本に来たこともあって、日本文化が大好きなんだ。私に日本についての本をいろいろと紹介してくれるよ。例えば、アラトリステと同時代、17世紀の武士、宮本武蔵に関する本などを教えてくれた。とにかく彼は、禅と剣術に関する本などが大好きなんだ。サムライ映画も大好きでたくさん観ている。それで、今回のアラトリステの脚本を彼が読んでとても気に入って、撮影現場にも来てオランダ人の兵士役で出演もしたんだ。彼は武道がとても得意でね。空手やカンフー、剣術をやっているんだ。で、ストーリー上、私は息子を殺すんだ。リハーサルの時、「本当だったらお父さん、絶対許さないよ。映画だから許すけど」と言われたよ(笑)。息子とは本当に良い関係なんだ。実は昨日、日本に出発する前に「飛行機の中で読むといいよ」と本をくれたんだ。それは侍、剣術についての本だった。それを読みながら、アラトリステというのは非常に宮本武蔵などの日本の侍と共通点があると思った。独特の倫理感や道徳観、プライドを持っていて、仕える主人をもたず、旅の日々を送る一匹狼の剣士というところが侍と似ている。だから、日本の方々にもなじみがあるテーマを含んでいるこの映画に共感していただけるのではないだろうか。
(通訳の方に向かって)申し訳ない、長すぎたね(笑)。

外国語での演技は難しかったですか?

 日本語だったらとっても難しいと思うけどね(笑)。スペイン語はそれほどじゃなかった。私は南米で育ったので、英語と同じ時期にスペイン語も学んだからね。ただし、スペイン語と言っても南米とスペインではちょっと違っているし、発音も違っていたりする。それに17世紀が舞台ということで、今では使わない言葉や言い回しがあるし、言葉の使い方も変わってきているということで、それに関してはいろいろと参考書を読んだり想像力を働かせることも必要だった。でも、どの映画でもそうした人類学的なリサーチをする必要はある。それほど大変なことではないし、むしろ興味もそそられる。スペインのどの地域からの出身なのか、どういうリズムで話すべきかなのかは考えたね。時々感じるんだが、私にとっては英語で感情を表現するよりもスペイン語のほうが楽なんだ。あと、最近はものを書くときもスペイン語を使うようにしているんだ。というのは、言語のせいなのか文化のせいなのか分からないが、スペイン語のほうが感情を表現できるということがある。
文化の違いということについて話したけど、ここにいらしているカメラマンの方々は、司会の方が一言「止めてください」と頼んだらすぐに止めたね。これはスペインやアメリカ、イギリスでは絶対にあり得ないことだ(笑)。誰かが文句を言ったり、長いこと止めなかったりする。

今度、スペインで舞台に出られるとか?

 たぶんね。まだ交渉の段階だが、おそらくそのチャンスはあるだろう。来年の話だが、舞台をやるのは20年ぶりというだけでなく、スペインでスペイン語でやるということで、私にとっては大きなチャレンジになる。途中休憩もないし、逃げようがない。舞台はテイク2とかやり直しが効かないからね(笑)。台詞も全部暗記しなくてはならない。ということで、とっても怖いんだ。たまにはこういう怖い思いをするのも悪くない(笑)。
この映画についてだが、『アラトリステ』は私だけでなく、この映画に関わった人たち全員の愛の結晶だと言える。スペインが大帝国を築き、世界最強の国だった黄金時代について、スペインの方々が自ら映画で語ったことはこれまでなかったんだ。歴史家や小説家が本を書いたことはあるが、このような映画になったことはなかった。ハリウッドやイギリス映画はかなりこの時代のことを扱っているんだが、あくまで彼らの視点で描いていたので、例えばイギリス映画なら大英帝国がスペインにとって代わって世界の最強国になった話などがメインだった。大英帝国や“アメリカ帝国”は自分たちのイメージを実際より良くすることに腐心していて、例えば「大英帝国には日は沈まない」というフレーズがあるが、元々はスペイン帝国のことだったのに、自分たちのこととしてちゃっかり借用したわけだ。
そもそもスペイン人はプライドが高く、自分たちを売り込むような真似は潔しとしない。でも今回のような機会を初めて得て、スペインの方たちにとっては歴史をもっと正確に、微妙な点も含めて深く掘り下げて語れるチャンスだったんだ。当時は経済的にも軍力も非常に大きな国だったが、それだけでなく文化的にも非常に豊かであったことが、この映画の中でも描かれている。この映画の関係者は全員、ちょっとナーバスになっていた。というのは、スペインの皆さんがこの映画に大きな期待を抱いていたし、シリーズ小説も何巻も出ていたからね。だから、みんなの期待を裏切らない本当に良い作品に仕上げなくてはいけなかった。そうして完成したこの映画だが、今後20年も30年もスペインを代表する古典的作品になるのではないかと私は確信している。

今回はスペインで長期間撮影に参加され、スペインのクルーと接してこられて、スペインやスペインの方々にどのような新しい魅力を発見されましたか? それと、胸につけていらっしゃるバッヂの意味を教えてください。

 「アラトリステ」の原作者であるレベルテの言葉を借りることを許していただくなら、「スペインというのは未だに、多様な人々、多様な国籍、多様な言葉を持つ人たちの国だ」。私は今回撮影中にもいろいろな所を旅したが、カスティーリアのレオンも訪れた。レオンの人々というのは山に住んでいて、アラトリステにも似て非常に頑固だし、冬がとても厳しいのでそれがユーモアにも反映されていて、とてもドライなんだ。30~40人くらいの小さな村に行くと、半分の人たちは髪も目の色もダークだが、あとの半分は私や弟のような容貌をしていたりする。イベリアとケルトが混淆している印象だった。とてもタフで人々で、そのタフさがユーモアにも反映していたので、アラトリステととても近いものを感じたので、私はレベルテに「アラトリステはレオンの出身という設定にしていいですか?」と訪ねたんだ。レオンの人々はスペインでも人気者というわけではないし、レオン自体もとても美しいが、スペインに来てバカンスを過ごそうと思いつくような場所ではない。でも、私はアラトリステをレオンの出身者とするのがふさわしいと感じたんだ。つまり、胸につけているこのバッヂはレオンのエンブレムなんだよ。
今回スペインに行って、建築物や人々の顔などいろいろなものを見たし、今回映画でフューチャーされているベラスケスなどの絵画もたくさん観た。この映画自体がベラスケスが描いた絵の連続のような続きがした。劇中には実際に彼の作品もいくつか出ているしね。セビリアで水を与えるシーンでアラトリステが絵画に触れているし、「ブレーラの幸福」も大きく登場しているね。
私はプラダの美術館には何度も行っているが、今回、ベラスケスの絵を新たに観て、これまでとは観方が変わっていることに気がついた。彼の絵を観ても、そこにいつも自分自身の姿を探しているんだ。それに、スペインにも何度も行ったことがあるが、レオンでもどこに行っても人々の中に自分自身を探し、そして実際に自分を見つけているんだ。これこそが映画を創ること、俳優であることの醍醐味だと言える。絵を観てもただ単に観ているだけではなく、その中に自分を置いて観ていることに気づく。

最後に、この映画はスペインの方々が初めて、黄金時代を自ら描いたとおっしゃっていましたが、ヴィゴさんご自身はこの映画にどのような魅力を感じていらっしゃるか、これから映画をご覧になる方々へのメッセージを交えて語っていただけますか?

 この作品に関わり、毎日役作りをし撮影を続けていると、キャスト・クルー全員が家族のようになっていった。僕は今独りでいろいろな所を旅しているが、この映画の撮影はまるで別世界をみんなで旅しているかのような絆を感じだった。この映画が描いているのも、まさにそれだ。自分は他の人々のために何を犠牲に出来るか、自分にとって友情とはどのような意味があるのか、友情のためにどこまで出来るか――、つまり、真の友情について語っているんだ。時には明らかに間違いを犯していても、プライドと固い信念、揺るぎない忠誠心と倫理感を持って、共にあるということが大切だ。そうした友情のあり方は非常に古臭く、時には愚かにも見えるが、何よりも重要なものだ。毎日撮影をしながら私はつくづくそう思ったよ。それを伝えているからこそこの映画には価値がある。結局、スペインであろうと日本であろうと、国家というのは単なる概念にすぎないものだ。この世にはただ人間の集まりがあり、互いに時間と存在を与え合いながら、共に立ち上がるんだ。国家は結婚や友情以上のものではなく、概念にすぎないんだ。
私たちは互いに信頼し合いながら、犠牲をも厭わず、この映画を創るために一丸となった。現実と映画の中の物語が非常に共通していた気がしたね。

ファクトリー・ティータイム

2年ぶりの来日となったヴィゴ。50歳になっても若々しく、繊細で思索的ながら男の色気もたっぷり。質問が出来て、視線をいただいたときにはもう、倒れそうでした……って、こればっかですが。でも、息子さんの話をするときにはしっかりパパ。ヴィゴも一人のフツーのパパなのだとちょっとほっこりした気持にもさせられましたね。ところで私事ながら、おそらくはこれが最後の記者会見への出席です。一番最後がヴィゴでよかった。ヴィゴが私の質問に答えてくれたことは、良い思い出になるでしょう。
(写真:Sachiko Fukuzumi、文:Maori Matsuura)


Page Top