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トップページ > インタビュー > 『痛いほどきみが好きなのに』イーサン・ホーク インタビュー

イーサン・ホーク インタビュー

2008-05-16 更新

今の僕のパッションは、人間としてアーティストとしてより深く、より饒舌に自分を表現していくことにある

痛いほどきみが好きなのに

イーサン・ホーク

1970年11月6日テキサス州生まれ。5歳のとき両親が別居し、各地を転々とする。14歳の時に、ジョー・ダンテの『エクスプロラーズ』(85)で映画デビュー。一時学業に専念するが、89年にニューヨーク大学入学後、ロビン・ウィリアムス主演の『いまを生きる』(89)で復帰。その後、『生きてこそ』(93)、『リアリティ・バイツ』(94)、『恋人までの距離〈ディスタンス〉』(95)、『ガタカ』(97)、『大いなる遺産』(98)、『ヒマラヤ杉に降る雪』(99)などに出演し、俳優の幅を広げていく。2001年にはデンゼル・ワシントンと共演した『トレーニング デイ』で、初めてアカデミー賞助演男優賞にノミネートされる。舞台での活躍も目覚しく、ゲイリー・シニーズ演出によるサム・シェパード作品「Buried Child」やケヴィン・クラインと共演したリンカーン・センターでの上演作「ヘンリー四世」、ニュー・グループのリバイバルによるデイヴィッド・レイブ作品「Hurly Burly」などに出演、05年度にはルシル・ローテル賞最優秀主演男優賞、ドラマリーグ賞最優秀俳優賞にノミネートされた。最近では、トニー賞を受賞したトム・ストッパードの長編3部作「The Coast of Utopia」に主演している。 また俳優だけでなくアーティストとして多方面でその才能を発揮。95年にはリサ・ローブのミュージック・クリップを監督。翌96年には自身の恋愛体験を織り交ぜて書き上げた本作の原作「痛いほどきみが好きなのに」を出版、処女小説とは思えない力量で恋におちた青年のもてあます心情を自然体で描き出し、ニューヨークタイムズほかブックレビューで絶賛を浴びる。続けて「いま、この瞬間も愛してる」を上梓、小説家としての基盤も確立させた。01年には『チェルシーホテル』で念願の監督デビューを果たし、出演と同時に脚本もかねた『ビフォア・サンセット』(04)では脚本家としてアカデミー賞にノミネートされた。 98年に『ガタカ』(97)で共演したユマ・サーマンと結婚したが、2004年に離婚。 最新作はシドニー・ルメット監督作『Before the Devil Knows You're Dead』(07)。ジェームス・デモナコ監督作『Staten Island』、近未来ヴァンパイア映画『Daybreakers』にも出演が決定している。

配給:ショウゲート
5月17日(土)、新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー

 俳優として活躍するイーサン・ホークが、若かりし頃の体験を織り込んだ処女小説を自ら映画化。監督・脚本・出演の三役を務め、激しい恋に溺れ、傷つきながら成長していく若者の姿を瑞々しく描いた『痛いほどきみが好きなのに』のPRで来日したイーサンが、ひときわ想いの深い本作について語ってくれた。

-----今作はどのくらい自叙伝的な部分があるのでしょうか? その割合が大きいのだとしたら、自分をさらけ出すことに抵抗はありませんでしたか?

 これはいわゆるメモワール、つまり僕の人生に起こったことをそのまま綴ったというわけではないんだ。僕の人生に起きたことからディテールを取り入れたところは、もちろんある。そもそも僕は、人生とアートの境界線が曖昧な作品がとても好きで、フィクションではあってもそこに真実があるような、とてもパーソナルな作品に常に心動かされてきた。だから、この作品もそうなんだ。 自分自身を見せることに対する躊躇はなかった。もちろん、自分を反映させるアートの形態というのは、ともすれば自己中心的・陶酔的になりがちだという危険性は孕んでいるけどね。

-----実際にあったエピソードはどの程度、取り入れているのですか?

 たくさんあるよ。ここで使われている台詞の中には、実際に誰かが言ったり、他の人が誰かに言ったのを聞いたりしたものもたくさんある。ただ、全てが映画と同じシチュエーションで起こったわけじゃない。そうしたエピソードを起承転結があるストーリーの中に織り込んでいったんだ。

-----一番好きな台詞は?

 一番好きなのは、原作にはなくて、映画で採用した台詞なんだ。最後のほうでサラがウィリアムに言う、「あなたの心は私と出会うずっと前に壊れていたんじゃないの?」という台詞だよ。 でも、どの台詞がいいかというのは僕が決めることじゃないし、作り手としては不断の努力をして良いものを創るだけで、どの台詞も最高のものであってほしいと願ってやっているわけだから、一つだけ選ぶのはヘンな話だよね。ただ、この台詞を特別に挙げたのは、原作にはなかったんだけど、僕自身が原作の核心を理解するためにものすごく役立った台詞だったからなんだ。

-----自伝的な作品ではないということですが、恋愛に対する考え方やキャラクターの性格という面で、あなたご自身と小説のウィリアム、そして映画でマーク・ウェバーさんが演じたウィリアムはそれぞれ違いがありますか?

 それは……どう答えたらいいか分からないな(笑)。この作品には自分自身がたくさん入っていることは確かだ。この10年間、白日夢のようにずっと温めてきた映画で、この中のアイデアや出来事、感触や音、ビジュアルに関しては本当に、自分のものが一部入っているとは言えるよ。ご質問の答えになっているかどうかは分からないけど。

-----表現方法として最初に小説を選ばれたのに、その後映画化されたというのは、小説では描ききれなかったという想いがあるのでしょうか。それとも、最初から映画にしたいと想定されていたのですか?

 とにかく僕は映画が大好きなので、常に映画のことを考えている。だから、答えとしてはその両方だろうね。ただ、小説を書き始めたのはすごく若い頃だったので、自分自身、まだ物語の本質を理解しきれていなかったと思うんだ。映画を作ることによってより深く理解することができたので、それが楽しかった部分でもあるね。

-----他の監督にこの小説を映画化されるのは避けたかったということはありましたか?

 実は映画化を打診されたこともあるんだけど、やっていただきたい方じゃなかったんだよね(笑)。逆に、撮っていただきたいと思った方々に相談したら、全員が口を揃えて「自分で撮れよ」と言われて。僕にとってはとても素晴らしいチャンスではあったね。

-----自分の小説を監督するというのは、やりやすいところとやりにくいところがあると思いますが、いかがでしたか?

 やりやすかったところは明らかに、自分がものすごく良く知っている題材だということ(笑)。難しかったのは、客観性を失いがちだったということだね。

-----これはラブ・ストーリーですが、父親という存在がウィリアムの恋愛のあり方に間接的に影響を与えているような描き方をしていたと思います。ご自身としては父親という存在にどのような意味をもたせたかったのですか?

 実は僕もこれは、ウィリアムにとってのサラという存在に関する映画ではないと思っているんだ。サラはこの物語の媒介役を担っていて、彼女との関係によってウィリアムは自分の古傷のかさぶたを取ることができ、そのことによって本当の傷があらわになり、癒すことができるようになるんだ。 これはあえて言うなら、2人の若いキャラクターがそれぞれ、置いていかれることに対する恐怖と向き合っているストーリーだ。それと共に、僕たちの恋愛観というのはいかに、自分の両親から与えられた愛によって形作られているかということも描いている。ウィリアムはメンター(心の指導者)を求めているようなところがある。自分自身に自信が持てなければ、恋愛関係においても上手く舵を取れないからね。

-----イーサンさんは父親役を演じていらっしゃいましたが、当初は他の俳優を想定していたと伺いました。自ら演じることになったいきさつをお話しいただけますか?

 やりたいと思っていたわけではないんだけど、やってすごく良かったと思っている。監督として俳優の自分を演出することに全く興味がなかったし、むしろ混乱を招くんじゃないかという心配もあって、おっしゃったようにアプローチをした俳優さんたちもいたんだけど、役のサイズの割にはテキサスとニューヨークに行かなければいけないということでスケジューリングがすごく大変だったし、お金もなかったし(笑)、なかなかうまくいかなかったんだ。だから、僕がやることになったんだけど、結果的にはすごく良かったし、自分がやることで、収まるべきところに収まったのかなという思いもある。演じるのが楽しかったしね。あのシーンは原作にはないんだけど、この作品の脚本家としては一番大切なシーンになったんだ。

-----父と息子の関係性が大変重要な役割を果たしている作品ですが、ご自身もお子さんがいらっしゃって、映画で家を離れるときなど、どういう風に仕事とプライベートのバランスをとっていらっしゃるのでしょうか?

 それはすごく大変だよ。僕の人生における大きな課題と言える。ここ数年は舞台に多く出演しているのでいいんだけど。監督もまだやりやすい。それに対して、俳優だとどうしてもロケなどがあって家を離れなくてはいけない。子供が小さいうちは連れていくこともできたんだけど、ある程度大きくなったら学校もあるし友達もいるから、だんだん難しくなってくる。だから、僕にとっては大きなチャレンジでもあるんだ。今のところ、その解決法は舞台の仕事に比重を置くということだね。クリエイティブな意味でとてもエキサイティングな仕事をやりつつ、家にいることもできるから。

-----ジェシー・ハリスの素晴らしい楽曲の数々がストーリーを彩っていますが、本作のサウンドトラックに参加した豪華なアーティストたちはどのように選ばれたのですか?

 ジェシー・ハリスとのコラボレーションはすごくエキサイティングだった。この映画が音楽的なものになるということは、最初から自分でも分かっていたので、作曲者は一人にしたいと思っていたんだ。一貫性をもたせたかったからね。彼に全曲書いてもらって、そこから素晴らしいアーティストたちに依頼をした。アーティストは、脚本の中のそのシーンを一番体現してくれる、その曲を通して饒舌に語ってくれる人ということを基準にして選んだ。例えば具体的にいうと、父親と母親が登場する映画の冒頭シーン、テキサスが舞台で時間軸としてはちょっと過去なのでウィリー・ネルソンがピッタリだということでお願いしたり、ノラ・ジョーンズは恋に落ちていくときのあの気持ちをパーフェクトに伝えてくれる……というように、ジェシーと二人で誰が一番ふさわしいか考えながら選んでいったんだ。それで、こうした曲は全て、撮影前にレコーディングできたんだよね。何より最高だったのは、全曲書き下ろしだったので、ボーカルの使い方とかどういう風にアレンジするかということは全部、こちらで決められたということだった。

-----今のあなたにとっての“The Hottest State”(註:原題。テキサス州を指すと共に、“最もホットな状態”という意味もかけられている)とは?

 ……なんて、おかしい質問なんだ(笑)。僕は幸運なことに、若い頃に夢見たことの多くを実現できたので、今は大人として自分が世界にどういう風に役立つだろうかということをよく考える。あるいは世界だけでなく、自分の人生において何が出来るのか、あるいは何のために生きているのか、何をすべきなのかということも考えるんだ。“The Hottest State”、言い換えれば、今の僕のパッションは、人間としてアーティストとしてより深く、より饒舌に自分を表現していくことにあると言えるかもしれない。 ……こういう質問をされると、僕は律儀に答えてしまうんだよね。本来はもっと面白く答えるべきなんだろうな(笑)。昼間に夢を見ているような話じゃなくて、もっと気の利いた答えを期待されているってことは分かってるんだけど、つい……。

-----そんな……。素敵な答えでしたよ。

 ホント? ありがとう(笑)。なんかちょっと、精神科医の診察を受けているような気分だね。「オレは一体誰なんだ!? 分かんないよ~!」みたいな(笑)。

ファクトリー・ティータイム

メジャーな人気を誇っているのみならず、アート志向の強い彼だけに、ちょっとスノッブな方なのかと想像していたが、素顔のイーサンはスノッブどころか、一問一問真剣に考え込んで誠実・真面目に話をされる方で、初々しささえ感じさせられるほどだった。少年の頃から映画界で仕事をしてきたにも関わらずスレた感じがなく、今作にはまさに、そんな彼らしさが映されている。純粋に深く人を愛し傷ついた若き日。今も微かな痛みを感じながら思い出される過去の恋。似たような経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。国も状況も違うのに、まるで自分の経験を語られているかのような、不思議なまでに親密感を味わわせてくれる映画だ。
(文・写真:Maori Matsuura)


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