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記者会見

トップページ > 記者会見 > 『パークアンドラブホテル』凱旋記者会見

凱旋記者会見

2008-04-25 更新

りりィ、ちはる、神農 幸、熊坂 出監督、荒木啓子プロデューサー

パークアンドラブホテル

配給:マジックパワー
4月26日(土)より、ユーロスペースにてロードショー 大阪 第七藝術劇場、愛知 名古屋シネマテーク ほか全国順次
(C)PFFパートナーズ

 2008年のベルリン国際映画祭で、熊坂 出監督作品『パークアンドラブホテル』が最優秀新人作品賞を受賞した。急遽開催された凱旋記者会見には主なキャストとスタッフが参加し、未ださめやらぬ受賞の興奮を語ってくれた。

----受賞されて何日か経ちましたが、今のお気持ちは?

熊坂 出:本当にありがたいという気持ちでいっぱいです。

----実感は湧いてきましたか?

熊坂 出:そうですね。それは授賞式の時にずいぶんと感じました。

----授賞式で自分の作品名を呼ばれた瞬間の気持ちは?

熊坂 出:良く覚えていますが、その前に女優賞を受賞した子役の女の子がすごく印象的だったので、彼女のことをぼっと考えていました。ですから、自分の作品名が呼ばれた時は、“えっ?”という感じでした。

----こちらを首からかけていただきますか?

熊坂 出:これはディレクターズ・ビュー・ファインダーというもので、実際に撮影現場で使用できます。ちょうど買おうと思っていたのでありがたいというか、使えますから。僕は自分でカメラを回すので、本当に欲しかったんですね。すごくうれしいですし、すごく良い物です。

----受賞の報は、誰に最初に伝えましたか?

熊坂 出:妻ですね。喜んでいました。

----受賞の予感はありましたか?

熊坂 出:いや、それはないです。

----主演のりりィさんは、受賞したと聞いていかがでしたか?

りりィ:ちょうど誕生日だったので、友達や知り合いからたくさんのおめでとうメールが来ました。当然、誕生日おめでとうのメールだと思っていたら、受賞したと聞いて、“えっ?”と思って。招待作品だと聞いていましたが、受賞の対象になるとは思っていなかったので、突然連絡があり、びっくりしました。

----初めての主演映画ですが、現場ではいかがでしたか?

りりィ:こんな感じでした(笑)。初めてということもあるかと思いますが、探りながらやっていたのが印象的でした。

----ちはるさんは、受賞をどのように知りましたか?

ちはる:日曜日なのでゆっくり寝ていたら、中2になる息子が凄い勢いで階段から下りてきて、「何かママ、すごい賞を映画で獲ったみたいで、今テレビに出ていたよ」と言われました。嘘だと思ってまた布団をかぶっていたら、メールや電話がいっぱいきて、やっと本当だと思いました。

----今日は久々に監督とお会いになったと思いますが?

ちはる:もっと髪の毛をちゃんとすればいいのに(笑)。来た時はもっとすごい状態だったんですよ。いつもこのままで(笑)。

----神農さんは、ご自身が出演された作品がベルリン国際映画祭で受賞したと聞いた時には、どんな感想でしたか?

神農 幸:実感が湧くまで、すごく時間がかかりました。私も休みの日なのでゆっくり寝ていたら、朝から事務所の社長のハートいっぱいのメールが来たので、起きてネットなどで確認し、昼過ぎぐらいにようやく確信が持てました。その時には、とてもうれしかったですね。

----共演者の皆さんとも、今日は久々の顔合わせですね?

神農 幸:現場のことも、いろいろと思い出しましたし、監督が受賞した時の写真を見た時には良い意味で何も変わっていないなと思いましたし、今日お会いして、このままでいて欲しいなと思いました。

----どこが一番評価されて、受賞されたと思いますか?

熊坂 出:授賞式の後に皆で食事をしたのですが、その時に審査員の方々、女性の方2人と年配の有名な男性の方とお話をしました。パリの女性ディレクターは、まず脚本が新しいと言っていました。付箋がそこいら中に張りめぐらされていて、ぐいぐい引き込まれていく。ミステリーの要素が強くて、どうなってしまうのかという展開が非常に楽しめたと言っていました。また、彼女は「ライトな」と表現していましたが、それほど大したことを描いているのではないですが、ディテールが哲学的で楽しめると言っていました。特に「精子になりたい」といったような(神農 幸が演じた)マリカの台詞は、すごく評価が高かったですね。意外でしたが。男性の審査員の方は、黒澤明監督の『生きる』を思い出し泣いてしまったと言われていました。とんでもないと言ったのですが。
りりィ:すごくヨーロッパを感じると思いました。イタリアやフランスのような、人間という素材を大切にする映画に見えて。でも、最後に悲しみが残らないというか、そういうところがヨーロッパ的なので受けたのだと思うのですが。

----今回受賞されたような新人を対象にした賞がベルリン国際映画祭にあることは、事前に知っていましたか?

熊坂 出:招待作品だと聞いていたので、新人を対象にした賞があることは全く知りませんでした。

----受賞を聞いた時の状況と第一印象は?

熊坂 出:ベルリンの時もうれしかったのですが、PFFで受賞した時のほうが我を忘れるぐらいうれしかったので。ありがたい賞をいただけたということですごくうれしいのですが、ニュートラルでいたいなと思っていたので、解釈は人それぞれだと思います。受賞を聞いた状況はどうだったかな? どこかを歩いている時だったかな? 写真を撮っていたところだと思います。
荒木啓子:携帯電話で「何かがあるかもしれないので、帰国を延ばさないといけないかもしれない」と監督に連絡をした時です。その時にはたぶん受賞するだろうと思っていましたが、正式に知ったのは授賞式です。

----今回の受賞は、今後の活動にどのような影響を与えると思いますか?

熊坂 出:あまりないと思います。

----次回作の構想はありますか?

熊坂 出:話しすぎて怒られてしまったので、あまり話さないようにしようと思っているのですが、ドイツでさんざん喋ってしまったので言いますと(笑)、ひとつはピストルを拾った老人の話で、もうひとつは人の背中の写真を撮って売りつけている女の子の話です。

----好きな監督やお好きなジャンルはありますか?

熊坂 出:音楽ならすぐ出るのですが、音楽は駄目ですか? 僕は音楽に影響を受けていると思うので。ジャズが好きなのですが、E.S.T.、エスビヨン・スヴェンソン・トリオという、北欧ではものすごく有名なスウェーデンのトリオに影響を受けています。最近では日本でもどんどん売れてきて、Bunkamuraのオーチャードホールで毎年コンサートをやっています。映画は、何でも好きですけれどね。

----ベルリンでの受賞の感動はそれほどでもなかったのですか?

熊坂 出:感情の表現が不器用なのかもしれないですが、うれしいことはうれしくて。世間の評価も大事ですが、自分自身への評価も大事だと思います。特に、僕は周囲に流されてしまう性格なので、良い例えではないかもしれませんが、ブッシュ大統領や小泉元首相のようなたくましさが、すごく欲しいなと思います(笑)。本当にそう思っているんですよ。そういった点が圧倒的に足りないので、ニュートラルでいようと思っています。先ほど言った、(荒木プロデューサーからの)携帯電話の連絡を受けた時も、周囲は変わらないから、写真を撮影していても浮かれないように自分に言い聞かせていました。

----ラブホテルという特殊な舞台は、ヨーロッパの観客は理解できたのでしょうか?

熊坂 出:普通はラブホテルの屋上に公園があるのかといった質問もありましたが、ラブホテルの中では大人がセックスをして遊んでいて、屋上ではまだ生殖行為が出来ない子供やセックスを失った老人たちが遊んでいるのがすごく面白いと思うと話したら、受けていました。

----プロデューサーから見た、監督としての熊坂さんの力量や魅力は?

荒木啓子:ベルリンでの質疑応答を通じて感じたことですが、この作品の魅力は、大人の女性を主人公にしていることです。監督より年上の人を主人公にしている若い日本映画は非常に少ない中、この点で好意を持たれていたという大きな実感を持っています。監督の資質については、監督の『珈琲とミルク』という作品をご覧になった方もいると思いますが、短編の短いエピソードの中で、いろいろな思いを盛り込むという力量が非常に高い方です。今回初めて長編に挑戦されたのですが、短編の手腕が反映された長編だと思います。この特質を活かした長編としての構成が新しい映画を生んでいくのではないかと、ベルリンでの反応を見ながら予感しました。

----撮影中の監督にまつわるエピソードを教えて下さい。

りりィ:一番面白かったのは、撮影中も(舞台となった)ホテルが営業をしていまして、受付に座っているとお客様が訪ねて見えて、困ったなと(笑)。役に入ると、その場所が自分が生きている場所のように思っているので、ところどころに今でも思い出が残っています。何か表現しにくいので、ちはるさん、よろしく。
ちはる:りりィさんがおっしゃたように、実際にラブホテルというよりも連れ込み宿のような場所での撮影だったので、控え室もその中の一室を借りて待っているような感じでした。普通に見るとエッチなものが、余裕で見られたりしました。最近はそういうのが少なめなので、自分自身もちょっと潤いを頂いたみたいな(笑)。監督は、私を含めて、演出の中でその人の本質、その人の一番魅力的なところを引き出すためにすごく頑張っていまして、「それでいいの? それであなたはリアルなの?」ということをいつも質問されました。子供がいっぱい出てきますが、子供たちの話や音声さんでも拾えないような音も「それがリアルだよ」と言い、子供たちを使うのがとても上手だなと思いました。私もそういった演出に上手くのせられて、とても楽しく、演技ではなくリアルに撮っていただけたかなと思っています。
神農 幸:ちはるさんと同じところもありますが、あまり言うと監督が恐いから言いません(笑)。とてもリアルな違いとか、私にとってのリアルをすごく優先して下さって、「それが神農さんにとって、マリカにとってリアルなら、それでいこう」と、とてもやりやすくしてくださいました。撮影場所は新大久保でしたが、実際に泊まられた方の中で室内で焼き肉をされた方がいて、控え室にしようと思っていた部屋があまりにも焼き肉臭く、部屋を移動した方もいました。その土地で一緒に生活しているような感覚になり、連れ込み宿なのにとても居心地が良かったことを覚えています。

----2005年には、『珈琲とミルク』でPFFアワード審査員特別賞・企画賞・クリエイティブ賞を受賞し、さらにSKIPシティ国際Dシネマ映画祭短編部門最優秀作品賞も受賞されましたが、これは励みになっているのでしょうか?

熊坂 出:励みという意味では、ぴあとSKIPでの受賞がすごく大きいです。

----今、映像作家を目指している若い作家の皆さんに、ひとことメッセージをお願いします。

熊坂 出:おこがましくて、そんなに言えませんが。何だろうなぁ……。今は、良くも悪くも誰もが撮って編集できる時代なので、まず撮ったら良いと思います。映画監督とはなりたいと思ってなる職業ではないので、何かを作りたいという衝動みたいなものがあって、気がついたら映画監督になっていたというのが一番自然だと思うので。だから、何かを創りたいと思ったら、創れば良いと思います。

----まだこの映画を観ていませんが、監督が描きたかったテーマは何ですか?

熊坂 出:ドイツでも同じことを聞かれたのですが、答えになっていない答えで申し訳ありませんが、意味やテーマから離れたくて作っている部分があります。ステレオタイプの受け答えで、申し訳ありません。意味に意味がないので、だから先ほど音楽が好きだという話をしたのですが。もしかしたら本質的なところであるのかもしれませんが、作り手側から言ってしまうと拘束力が大きいので、意味やテーマや解釈は見ている人が感じ取るものだと思います。だから、人それぞれに、そういうものがあるのだと思います。

----自分にとってのテーマはあるけれど言いたくないのでしょうか?それとも、自分でも無意識に撮っているのでしょうか?

熊坂 出:自分には、あまりないかもしれません。このような質疑応答はドイツでもありましたし、Q&A終了後にもお話をさせていただきました。審査員の方とも話しましたが、そのように皆さんのいろいろな解釈を聞いていくことで、映画が補完されていく、豊かになっていく。だから、僕の中に、特に固まった何かがあるのではありません。

----ベルリン国際映画祭で受賞された最優秀新人作品賞は、カンヌ国際映画祭で言えばカメラ・ドール(新人監督賞)に相当すると思います。11年前にカメラ・ドールを受賞した河瀬直美さんがその10年後にパルム・ドール(グランプリ)を受賞しましたが、熊坂監督は今後、何か目標はありますか?

熊坂 出:難しいですね。そういうキャラではなくて本当に申し訳ありません。矛盾しているようなことを言いますが、映画は商品なのでなるべく売れないといけないと思います。その一方で、映画は芸術でもあるわけですが。自分がアーティストだとは全く思っていませんが、芸術である以上、将来図や経済と拮抗する形で作らないといけない部分もあると思います。なるべくそういうものから離れて、とにかくニュートラルな感情で邁進したいと思います。

----出演者の皆さんが、脚本を読んだ時の第一印象と、完成した映画を最初に観た時の感想を教えて下さい。

りりィ:この映画で主役をやらせてもらってはいますが、完璧な主役ではなくて、ストーリーを進める進行役だと思っています。オムニバス形式になっていて、ストーリーごとに主人公がいて、という感じを受けました。仕上がりは私が思っていたとおりになっていましたが、思っていたよりも映像がきれいでした。全体にもっと暗くなっていると思っていたのですが、このきれいさは素晴らしいと思いました。
ちはる:脚本を頂いた時には、ラブホテルの上に公園があることがピタっとハマらないと、失敗するだろうなと思いました。でも、実際に撮影をする公園が本当にラブホテルの上でしたし、監督の言われるリアルな空間だったのでとても良いなと思いました。監督は『珈琲とミルク』もそうなのですが、人間と景色がすごくきれいに捉えられていて、何気ない音や生活の音をとても大事に描いている方です。脚本を読んだ時には、そういうことが出たら、すごく良い映画になるだろうなと思いました。
神農 幸:脚本を読ませていただいた時には設定がすごく面白いなと思いましたが、すぐに自分の役どころに悩んでしまいました。現場に入る前も、現場に入ってからも、自分のキャラクターについて監督とずっと話し合いました。脚本を読んでいる間は愉しみ半分、後はずっと悩んでいました。撮影が終わり、上がってきたフィルムを観た時には、オープニングのタイトルがぐっと出るところで、きれいな映像とすごく素敵な音楽と色の雰囲気とで、鳥肌が立つというか、こんな場面で言うのも失礼ですが、すごく好きだと思えたんですね。ですから、この作品に参加できたことは、仕上がった作品を観ても好きだと感じました。

ファクトリー・ティータイム

『母べえ』の受賞を期待して、日本から例年以上の報道陣が集まったベルリン国際映画祭の会場で伝わった「最優秀新人作品賞は日本人に」という吉報。会場を訪れたのは監督とプロデューサーだけだったが、日本にいた出演者達も実に嬉しそうな表情だった。
(文・写真:Kei Hirai)


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