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インタビュー

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『M』単独インタビュー

2007-09-17 更新

廣木隆一監督&美元


Mmovie-m
© 2006『M』フィルムパートナーズ
配給:ハピネット
宣伝:スローラーナー

廣木隆一監督

 1954年福島県出身。
 82年に『性虐!女を暴く』で監督デビュー。93年『魔王街 サディスティックシティ』でゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭ビデオ部門グランプリを受賞。94年、サンダンス・インスティテュートにおいて奨学金を獲得して渡米。帰国後発表した青春映画『800 Two Lap Runners』(94)で文化庁優秀映画賞、文化大臣芸術選奨新人賞、批評家大賞、最優秀監督賞を受賞している。
 その後、ポップな恋愛映画『ゲレンデがとけるほど恋したい』(96)やハードボイルド作品『天使に見捨てられた夜』(99)などでその柔軟な演出手腕を発揮。近年では『東京ゴミ女』(00)、『美脚迷路』(01)、『理髪店主のかなしみ』(03)などで、生活の隙間にある出来事を独自な視点と映像美で描き、評価を得た。
 2003年には寺島しのぶを主演女優に迎え『ヴァイブレータ』で一大センセーションを巻き起こし、第25回ヨコハマ映画祭・監督賞他5部門を受賞したほか、マンハイム国際映画祭、香港国際映画祭、ナント三大映画祭、チョンジュ国際映画祭などで数々の賞を受賞。特に第16回東京国際映画祭ではコンペティション部門にノミネートされ、寺島しのぶに優秀女優賞をもたらした。
 また、ミュージシャンとの親交も深く、本作で音楽を担当したオオヤユウスケが活動しているohanaのショートムービー『予感』の監督も務めた。
 2006年は『ヴァイブレータ』のスタッフ、キャストが再集結し製作された『やわらかい生活』が公開。シンガポール映画祭でグランプリを受賞し、TOKYO FILMEX、バルセロナ映画祭、サンダンス・フィルム・フェスティバル、プラハ映画祭、ドーヴィル映画祭など世界各国の映画祭で上映された。
 最新作は堀北真希主演『恋する日曜日 私。恋した』(07)。また2008年春には重松 清原作『きみの友だち』が公開予定。


美元

 1979年、東京都出身。日本人の父と韓国人の母を持つ。
 2000年度準ミスユニバースジャパンを受賞。ミスユニバースジャパンとして国内のチャリティー活動などに従事。
 その後アジアを中心に、パリやLAなど10ヵ国以上で、シャネルやマークジェイコブス、エンポリオ・アルマーニ、イブ・サンローランなどのショーでモデルとして活躍。2005年に、中国で開催された、MODEL LOOK世界大会で特別賞を受賞。香港アクションスターのサモ・ハン・キンポーの招待により、LAでレッスンを受ける。
 今回初めて演技に挑戦し、不安定な聡子の心情を体当たりで演じきった。
 また、「マリ・クレール」香港版などでのライターとしての執筆活動や、ミスユニバースジャパン選考でのウォーキング講師などを務めているなど、女優、モデルをはじめとした幅広い活躍が期待される。



 『ヴァイブレータ』の廣木隆一監督が、ノワール小説の騎手・馳星周の中篇集を映画化。心に闇を抱え、背徳の世界に堕ちてゆきながらも、愛を求めて狂おしいまでにもがく人々の孤独と哀しみを映した本作『M』で、映画初出演にして主演ながら迫真の演技を見せた美元と廣木監督が、撮影当時の思い出からSM感まで楽しく語ってくれた。


(美元さんに)『恋する日曜日 私。恋した』のインタビュー時にいただいた監督の動画メッセージをお見せしますよ。

廣木隆一監督: いいって(笑)!

美元: 見たいです!

廣木隆一監督: もう始めよう! 弱みを握ったとばかりに……(笑)。もう消して、それ! どうするの、それ?

美元: (動画を見て)まあ、ステキ!

廣木隆一監督: ……今日は美元に話してもらうからな(笑)。美元の胸元を見ているオレ……みたいな(笑)。


監督、美元さんに初めてお会いになったときの印象は?

廣木隆一監督: いきなり来たぞ(笑)。“でっけー女だな~”って(笑)。ごめんなさい、オレが小さいんです(笑)。今回は人妻の役だけど、通常考えられるような人妻のイメージとは違う人がいいなと思って、美元は結婚しているわけじゃないし、こんな綺麗な人が何でそんなことをしていくの?と思わせたかったんだよね。美元は身長が17……9センチだし……。

美元: そんなにありませんよ(笑)!

廣木隆一監督: ……で、バストが96で。

美元: それはホントです(笑)。

廣木隆一監督: ……っていうのがあったんで、話してみたら、なんだか自信がなさそうなのも良かったし。


やっぱり、初めて演技されるということもあってですか?

美元: 演技に関する自信は全くなかったですね。やったことがなかったので。でもなんか、ヘンな自信はあって、自分がやれば他の人とは違った聡子になるとは思っていました。


初めてというだけでなく、すごく勇気のいる役ですよね?

美元: 勇気は要りましたね。でも、挑戦するのが好きなので。映画初出演で初主演というと、皆さん「ラッキーだね、良かったね!」と言ってくださるものだと思いますけど、今回はそういうのが一切なかったんですよ(笑)。怖いくらい緊張していて、それを乗り越えたいなと思いました。オーディションのときはすごく緊張していました。オーディションに行く前から“絶対私がやる”というヘンな自信はあったんですけど、オーディションでの緊張というのは“この役をどうやって演じよう”という思いからだった気がします。


シナリオを読まれて、どうしてこれを自分の主演作にしたいと思われたのですか?

美元: シナリオを読む前から、直感しました。廣木監督のお名前に引かれたということでもなく、『M』というタイトルで直感したんです(笑)。本当に、直感という以外ないんですよ。後から一生懸命理由は探しましたが。


理由は見つかりましたか?

美元: もちろん、一つではないんですね。こうやって公開が近づいていくとまた、“こういう意味もあったんだ”とどんどん理由が見つかっていきます。


『M』というタイトルから、あの“M”を想像されましたか?

美元: わたし、全く想像しなかったんですよね。

廣木隆一監督: 何を思い出したの?

美元: 本当に“美元(ミヲン)”のMだと思いました(笑)。

廣木隆一監督: そうじゃなくて(笑)、普通に考えた場合、Mというのは何のイメージなの? 僕は知っていたんだよ。原作も読んでいたから。


原作を読まれて、映画化したいと思われたわけじゃなかったんですか?

廣木隆一監督: いや、そうじゃなかったんだ。原作はだいぶ前に読んでいたけど、まさか僕に話が来るとは思わなくて。で、普通に考えたら何のMだと思う?

美元: 逆に、“何のMなんだろう?”と分らなかったのがすごく魅力でしたね。

廣木隆一監督: (インタビューアーのほうを向いて)何のイメージがありました? Mother(母)とか?


ん~、いろいろな意味をかけているんだろうなとは思いましたね。登場人物の名前とか。

美元: 私も脚本を読んでいく内に、いろいろなMを想像しましたね。最後まで“何のMなんだろう”と考えながら読みました。

廣木隆一監督: 稔のM。

美元: 聡子はS(笑)。

廣木隆一監督: 子供は何て言ったっけ?

美元: 将人です。

廣木隆一監督: あ、やっぱりMだ。馳さん、その辺は狙ってるよね。旦那は何だっけ?

美元: 秀之なので、Hですね。

廣木隆一監督: Hは違うね~。トモロヲさんの役は?

美元: 俵一郎さん。

廣木隆一監督: ……も違うね。そうか、稔と聡子の関係性か。


トモロヲさんの役名をSにすれば良かったんじゃないですかね。

廣木隆一監督: Sの役やってるから(笑)?


てっきり、監督が小説を読んで、気に入られてシナリオにされたのかと思いました。

廣木隆一監督: 今回はそうじゃなかったですね。馳さんの小説はこれも、他のも読んだことはありましたけど。人妻という設定が、本来ならあまり興味を惹かれないものだったので。実は僕、人妻を主人公にした映画って無いんですよ。まだ子供なんで、そこまでは行きつけてないんで(笑)。ただ、ホームドラマ的なことはすごくやりたかったんですね。そういった意味では『M』には家庭がありますよね?


次の映画も夫婦ものなんじゃなかったでしたっけ? 田口トモロヲさんと宮崎美子さんが夫婦役だと、以前おっしゃっていましたが。

廣木隆一監督: 主人公は子供たちなんですよ、14歳から22歳の。重松 清さんの小説が原作の『きみの友だち』という映画なので。


ああ、そうでしたか。結婚している人を主人公にしたのは初めてだったんですね。でも、これは監督がお好きそうな小説だなと思いました(笑)。

廣木隆一監督: 大好きですよ(笑)。大好きなので、ちょっと困ったなと思ったり。


あの小説をまとめるのは大変ですね。監督が要求されたことはありましたか?

movie-m廣木隆一監督: そう、シナリオが出来上がってくるまで1年かかりましたもの。僕自身が要求したことは、何か言ったらしいんですけど、ぜっんぜん覚えてないんですよね(笑)。この間、インタビューが載っている雑誌を読んで、“そういえば俺、こんなこと言ったよな”と思ったりして(笑)。今の少年たちの話をやりたいって言ったのかな。だから、高良が演じた稔のバックグラウンドを結構膨らませているんだよね。で、美元のほうは割に原作に忠実にして、二つの話を組み合わせた感じにしました。


美元さん、廣木監督の過去の作品はご覧になりましたよね? 女性の本質を引き出してくださる監督だと思いますが。

美元: 監督の作品は、脚本をいただいてオーディションに行く前に一通り拝見しました。

廣木隆一監督: DVDボックス? 出てないって(笑)!

美元: 思いのほか、女性が借りにくいタイトルもいっぱい出てきましたね……(笑)。

廣木隆一監督: そんなことないじゃん、すごい綺麗なタイトルが多いじゃない? 『ヴァイブレータ』とか『「物陰に足拍子」より MIDORI』とかさ(笑)。

美元: そ、そうですね(笑)。オーディションに行くかどうかは監督の作品を見てから決めさせていただこうと思ったんです。女性のリアルな姿を描かれる監督だと思いましたね。第一印象で“綺麗だな”と感じた方は見れば見るほどすごく人間らしく見えてきましたし、逆に第一印象は綺麗に見えなかった方も最後にはすごく魅力的に見えてきて、それが“すごいな”と思いました。


現場では厳しい監督でしたか?

廣木隆一監督: 全然厳しくないです(笑)! すっごく優しいですよね?

movie-m美元: あれを優しいというのでしたら……(笑)。

廣木隆一監督: みんな優しいって? そんなことないよ!

美元: ただ、感情をぶつけるとかそういう厳しさじゃないんですよね。的を得ているというか、本当のことしかおっしゃらないし、エネルギーを作品に傾けていらっっしゃるのが分かるので、それが逆に厳しかったですね。

廣木隆一監督: 僕は「こうしてほしい」とは言わず、割に待つんで、俺のほうが辛抱強い(笑)。

美元: それは本当にそうですね。

廣木隆一監督: 役者がそのときの感情をつかんで、そこに至れるまで待つんだよね。

美元: 撮影に入る前にお話をしていて、現場に入ってからは「台本を読んで、感じて」としかおっしゃらないので。結局自分でも、“そうやって自分でつかむ以外ないんだな”と思いましたし、迷っているときには待ってくださいました。

廣木隆一監督: 聡子という役は、一人ではなく必ず相手が絡んでいて、その流れで芝居をするので、そういう意味でも難しいよね。


聡子の内面について、お二人で話し合ったりしたのですか?

美元: ないですね。「台本に書いてあるから」と言われて。でも、それは本当にそうだなと思いました。「聡子は美元なんだから、俺に聞くなよ」って。ですから、現場ではほとんど質問しなかったですね。自分で考えるしかないですよ。逆に、人に言われるがままに演じていたら、今度また別の映画に出たいとは思わなかったかもしれません。あのときは辛かったけど、悶々と葛藤したことが良かったと今は思います。


自分の中の病んでいる部分を見せつけられるような気がしましたが、演じていてそういう感覚はありましたか?

美元: あのときは自分自身、病んでいたかもしれません。だからこそ頑張って何か答えを探そうとしたり、出口を探していましたね。私自身のそうしたあがきが、聡子の思いとちゃんと重なっていたらいいんですけど。役作りというのはどうすればいいのか全く分からないので、出来るだけ自分と聡子さんを近づけることしか出来なかったんですね。


聡子とご自身はどのような部分が近いと感じられましたか?

movie-m美元: 形は違うと思うんですけど、皆さん誰でも何らかのトラウマは抱えていらっしゃると思うんですね。自分は必死なんだけど、傍から見たらすごく不器用な方法でもがいていたりとか。実は最初はあまり聡子さんに共感できなかったんですけど、あるとき、“形を変えたら、私にも起こり得るかもしれない。今までも全くなかったとは言えないな”と気づけてからは、すごく共感を持てましたね。聡子さんは本当に不器用で、すごく人間らしいと思いました。彼女自身は必死なんですよね。そう思ったら、とても愛おしい気持ちにもなりましたね。


監督はそうした心に闇を抱えている人たちを撮っていくわけですが、監督ご自身はそれを客観的に見つめなくてはいけませんよね? ただ、監督をやるという行為は、ご自身の中の闇を見つめたいといった想いがあるのですか?

廣木隆一監督: 撮っているときは、それはないですね。企画があって、撮ると決めるまでの流れの中では考えていますけど、撮影に入ってからは自分の中の何かを模索するといった気持ちはないです。


受けるときには、自分の中で引っかかってくるものがあるわけですよね?

廣木隆一監督: それは絶対あります。それがないと撮れないですね。作品に対して向き合えません。


今回、引っかかってきたことは何ですか?

movie-m廣木隆一監督: 広く言うと、4人の人物がいて、それぞれの人生があって、どっちがMかどっちがSか、どっちが加害者かどっちが被害者かというのが明確ではないというのがは今の人間関係にあることだなという気がしたので、SとMと分けるのではなく、もう少し曖昧になったものを撮りたいなとは思いました。
 僕の映画の流れ的に言うと、女性一人や男女二人の物語を撮ってきたので、もう少し多くの登場人物について描きたいなというのはありましたね。そして、次はもっと人を増やす(笑)。だんだん増殖させようっていう(笑)。最後は群像劇だね。ロバート・アルトマンとか、もともと群像劇は嫌いじゃないんで。難しいとは思いますけどね。で、また戻ったりするんですよ、きっと。一人のお父ちゃんでも描いていたほうがいいんじゃないかな、なんて(笑)。


いつか監督の群像劇を見せてください(笑)。ところで、Mの欲望って、いったい何なんでしょう? Sは結構分かりやすいと思うんですが。

廣木隆一監督: Mの欲望ですか? 聞いてください、僕に(笑)。両方知ってますから。僕、SMに関するドキュメンタリーを撮っているんで、そのときに“なるほどな”と思ったんだけど、Mの心理って、Mの人に聞くと「縛られることによって解放される」というんですよ。それはすごく良く分かりましたね。縛られて身動きできないと、怖いじゃないですか。相手が信頼できないと身を任せられませんね。それが自分自身を解放させることにもつながっていくんでしょう。


ただ、日本の女性って割と普段からM的な状況にありますよね。ですからむしろ、Sになるほうが解放されるんじゃないかと思うんですが。

廣木隆一監督: Sの人は、自分に体を開いてくれる人に対して愛情が増しますね。だからこそ、一生懸命Sとして尽くすという。外面的にはそうは見えませんが、内面的には逆だと思うんですよね。Mのほうが実はSで。

美元: 私も、Mの人って自分に対してSなんだと思いました。聡子さんも、家の中で稔くんが迫ってきたり、俵さんに追い詰められたりしますけど、拒絶することが出来そうな状況でも、自分で受け入れているところがありましたね。ですから、最終的には自分に対するSだったのかなと思いました。どっちかということはないですよね?

廣木隆一監督: ないでしょう。両方に振れるんだと思いますよ。束縛されることで自分を解放できるのと一緒で、聡子にしてもトラウマを抱えていて、でもそれは本当にあったことなのか作り話なのか分からないわけですが、そこから抜け出すことができなくて、でもそれが無くなるときっと、彼女は生きていけないんでしょうね。人間、トラウマという束縛はあったほうがいいですよ。


でも、トラウマは克服したいですね~。

廣木隆一監督: 持っていていいんですよ。トラウマを持っている者同士だけが、一種の共犯関係になれるんですから。


確かに、トラウマのない人はつまらないでしょうね。

廣木隆一監督: 持っていない人はいないと思いますけどね。さっき、日本人女性はMが多いとおっしゃいましたが、今は世界中ストレスが多くて、結局みんなMだと思いますよ。

美元: 聡子さんが一番嫌なのは、一人ぼっちになること、誰からも関心をもたれないことだと思うので、相手がS的に接してきてもそれは喜びなんですね。世の中の人はみんな、誰かに関心を持ってほしいと思っているでしょうから、その極端な形がMに見えちゃうのかなという気はします。

廣木隆一監督: だから、俵にああされることを、聡子はどこかで喜んでいますね。

美元: 性的なことは喜びではないでしょうけど、自分を見てくれているということに関しては、どこか喜びを感じていたんでしょうね。


ご主人は満たしてくれなかったわけですものね。

廣木隆一監督: 妻は女じゃなくなったりするから。それで離婚する人たちも結構いるよね。


横糸的に親という存在が出てきていると思いますが、親の愛情の欠乏が愛への渇きを呼んでいるという解釈もできるでしょうか。

廣木隆一監督: どうでしょうね。

美元: 私はそれをすごく感じながら演じていました。


美元さんのブログを拝見したんですが、お父様と絆が深くて、とても良い親子関係を結んでいらっしゃるように感じたんですが。それは聡子とは正反対ですよね。

美元: 逆に、そういう絆をもともと持っていたとしたら、それを幸せだとも感じていなかったと思うんですね。そうじゃない時期もあったからこそ、そうなりたい!と思って、それが叶ったからこそ喜びの表現になっているわけです。うちが特別なのではなくて、どの家庭もそうだと思うんですよ。傍から見たら本当に満たされているのに、本人は満たされていないと感じていたり、どこの親子も満たされていない時期があって、そこから良い関係を探していくと思うので、それは皆さんがそうなんじゃないでしょうか。

廣木隆一監督: でも、お父さんと酒飲みに行ったりするんでしょ?

美元: 行けるようになりましたね。行くと昔の話をしてくれたりしますので、聴くのが楽しみなんです。

廣木隆一監督: 今回は確かに、父親の存在も大きいよな。稔が父親を殺しているのと、聡子がお父さん的な存在を求めたり。


そういえば、監督から親子関係にまつわるお話は伺ったことがありませんでした。

廣木隆一監督: 伺わなくていいです(笑)。怖いわ(笑)。


高良くんもインタビューしたことがありますが、あまりたくさんは話さない男の子だなと思いました。でも、スクリーンではすごくインパクトがありますよね。

廣木隆一監督: 青山真治監督の『サッド・バケーション』にも出ているね。彼、しゃべらなかった? 『ハリヨの夏』のときか。その頃はそうだったのかもな。今は結構しゃべるよ。

美元: 若干、人見知りはあるのかもしれませんね。九州男児的な。でも、熱いものは持っている人ですね。

廣木隆一監督: そうそう、芝居のことだったらすごく話すよ。この間もトモロヲさんとかと飯食ってて、高良が一生懸命芝居のことを話していて。トモロヲさんも「熱いね。俺が19歳のときには何にも考えてなかったぞ」って言っていたけどね。


今回はセットのこだわりはありましたか?

廣木隆一監督: 新聞配達所の場所があるじゃないですか。あれ、戸田ボートの近くの集会場を新聞屋さんにしてもらったんですけど、とにかく水を感じさせる所で撮りたかったんですね。あと、最後のラブホテルはセットを作ってもらいました。非日常的なんだけどありそうな、ヘンな空間にしたかったんで。


聡子の家なども、一生懸命頑張っているのは分かるんですが、いまひとつ……。

美元: 垢ぬけていない感じがありましたよね(笑)。聡子さんは全てに関してそうなんですよ。

廣木隆一監督: 誰も、きれいな格好してうちにいないでしょ(笑)。スウェット着てたりして。

美元: あれでも聡子さんなりに、一生懸命頑張っているんですよ。でも、「あれっ……?」って感じが(笑)。


でも、美元さんはお美しいので、それはいかんともし難かったですね(笑)。

廣木隆一監督: そうそう、それを何とかね、美元じゃなく聡子でいてくれ、と。


でも、こんな方がうちにいらしたら、いちいちドキッとするよな、とは思いましたが。

美元: (笑)。

廣木隆一監督: まあね~。でも、美元が日常の存在になっていたら、普通にいられるのかもしれないし。だって、カッコいい男が毎日そばにいたら、どう?


それはもう、毎日“素敵だな~”ってうっとりしますよ、きっと(笑)。

廣木隆一監督: へぇ~、そうなんだ(笑)。だから、ダメなんだよ(笑)!


ダメって、なんですか(笑)!

美元: 結婚したら、変わるものなんですかね?

廣木隆一監督: それは、ケース・バイ・ケースなんじゃないの? でも、変わるとは思うね。

美元: 聡子さんも最初は相思相愛のカップルだったんだろうなと思いますね。

廣木隆一監督: だって、女の人だって子供ができると変わるっていうじゃないですか。

美元: 子供が一番になっちゃうって言いますよね。


聡子さんも旦那さんを相手にしていませんでしたものね?

美元: そんなつもりはなかったんでしょうけど、無意識についそうしちゃったのだと思いますよ。

廣木隆一監督: 大体、子供が病気になったら大騒ぎだけど、奥さんが病気になっても彼女が一番にはならないよね、きっと。いつも二番目。

美元: でも、二人の子供が一番なわけですから、それはそれで良いことじゃないですか。


美元さんは、フィジカル的な面は別にして、心の健康を保つために心がけていらっしゃることはありますか?

movie-m美元: 気持ちを切り替えることですね。気分転換の方法をいっぱい考えます。それは体の状態に合わせて違うんですが、人に会うことだったり、逆に独りで過ごすことだったり、その時々によって違います。あとは今、あらゆることにこだわるようにしているんですよね。毎日使うような一つひとつの物、例えば、歯を磨くときに使うコップ、体を洗うスポンジ、そうした小さな物全てにこだわって、どの瞬間でも“楽しいな、うれしいな”と思えるような物に囲まれて、気持ち良く過ごせるようにしています。


監督はいかがですか?

廣木隆一監督: 僕? 不健康でいたいと思ってますから(笑)。


映画を撮っていないときは家にこもっていると、前におっしゃっていましたね?

廣木隆一監督: あぁ、こもってますよ。あっついすからね(笑)。“出たくね~な”って。


でも、電話にも出ないとおっしゃっていたじゃないですか。

廣木隆一監督: あ、出ないです、ほとんど(笑)。誰からなのかちらっと見るだけで、急ぎでしょうがないときだけ(笑)。それ、不健康ですか(笑)?


今回のラスト近く、車を運転しているシーンで「どこに行こうとしてるの?」と稔に聞かれて、答えた聡子の言葉が殺伐としていてちょっと慄然としたんですが、ここで終わるかと思ったんですよね。でも、どこか解放感のあるラストを迎えるわけで、どうしてそうされたのですか?

廣木隆一監督: それはちょっと最近、近しいプロデューサーからも「らしくない」って言われてるんですよね。今回の二人に関しては、行きたい所が本当になかったんだと思うよ。小説なんかだとよく「どこでもない所」なんて言ったりするじゃないですか。でも実際は行けないわけですよ。道を踏み外せば、ある意味、どこかへ行けるかもしれませんけど。ここでも“殺人”ということがあって、それは人間として越えるか越えないかというボーダーラインなわけで、そこから人は、物理的な意味ではなく、精神的に別の領域に入ってしまうということはあるのかもしれません。


確かに、ある程度のことは越えられると思いますが、殺人だけは……。

廣木隆一監督: そこを越えたらダメでしょ、という感覚はありますけど、考えてみたら、戦争やっている国は普通にそこを越えてるんだよね。そこには人間としての矛盾があるわけで、今回の映画でもそんなに爽やかに解放させてたまるかという思いはあったんだよね。爽やかに解放させているように見えるかもしれないけど(笑)。出来るだけリアルさを求めたつもりではいます。


今回、写真家の荒木経惟さんが題字とポスター写真などを手掛けていらっしゃいますが、どういう経緯があったんですか?

配給・宣伝担当: 私が交渉しました。監督にそそのかされたんです(笑)。

廣木隆一監督: 悪魔の囁きがね(笑)。

配給・宣伝担当: 最初お会いしたときは、“これは絶対無理だ……”と思ったんですけど、お話を伺っているうちにMに対する考え方などをいろいろと聞かせてくださって、荒木さんとしてはとにかく「主演二人の顔が気に入った。この二人を撮りたい」というところから始まりました。「大森さんと田口さんも……」とお願いしたら、田口さんも中心人物なんですけど、どちらかというと触媒的な役割、つまり聡子が変化するきっかけを与える人物ということで、その存在はどこかに感じさせるけれども、写真の中にはいないほうがいいんじゃないかということで、三人の写真になったという経緯があります。
 それから、題字はもう、お会いしたその日に書いてくださいまして。「写真よりも高いんだぞ」って言われましたけど(笑)。


すごくエロスを感じさせる題字ですよね。この映画はすでにいくつかの海外の映画祭に出品されていますが、お二人とも出席されたりしたのですか? どういう感想が聞かれました?

廣木隆一監督: 全部行ったかな。やっぱりラストのあたりとか、分かりづらさは指摘されましたね。二人は日常を越えて逃亡していくという話だと分かりやすいけど、その後に来るシーンは、実は夢落ちなのかどうかと聞かれたりしました。海外の映画祭って読めないですよ。すごく分かりやすいものはダメだし、分かりにくいものはもっとダメだったりするし。ただ僕がいつも言っているのは、僕らがいま現在撮っている映画、僕らが今生きている日本の姿を見てほしいということです。昔の良い日本映画はたくさんあって、よく見られたりしているけど、日本のリアルな今も見てほしいと思って映画を作っているという話はします。

美元: 実際、「本当にケータイにああいうメールが送られてくるんですか?」とか「日本でもドラッグがあんなに簡単に手に入るんですか?」とか、日本の文化に関する質問もたくさんされましたね。


ケータイを使った“出会い系”なんて、日本独特のものかもしれませんね。

美元: ええ、ですからそもそも“出会い系”という言葉自体が直訳できないんですよ。

廣木隆一監督: “系”だもんな(笑)。“系”って何だ?みたいな(笑)。


“出会い系”に行く人たちって、求めているものは明らかじゃないですか? その心理は理解できますか?

美元: 私は求めているものは明らかじゃない気がします。ただ単に男女関係を楽しみたい人たちばかりが利用しているとは思えないんですよね。ただ、私自身は使ったことがありませんから、“こういう心境なのかな”と想像するしかありませんが。何かに満たされていないからそこに走るわけで、男女関係だけに飢えているのではない気がします。


監督、壮年・老年女性のエロスを描く企画は進んでいますか?

廣木隆一監督: 具体的な話はいっぱいあるんですけどね。まだ決定はしていません。大人の男女の恋愛とセックスの話は何かやりたいなと、よく話してますけど。


最後に、これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。

廣木隆一監督: 『M』を監督した廣木です。SMといったことに興味がなくても、馳星周さんの小説が好きな方、荒木経惟さんの写真が好きな方、美元が好きな方、高良くんが好きな方、皆さんが楽しめる映画かどうかは分かりませんが、観ていただいていろいろなことを言っていただいたらうれしいです。ぜひご覧になってください。

美元: 『M』に出演している美元です。映画は出合いだと思いますので、小説「M」に出合った方は観てください。出合っていない方も観てください。


ファクトリー・ティータイム

 自称“廣木隆一監督ファン・クラブ副会長”(会長は某宣伝ウーマン)の私にとって、『やわらかい生活』以来4作目のインタビューをさせていただいたが、お会いするたびに楽しいお話を伺うことができ、その魅力にますますハマッていく。美元さんも、2000年度準ミスユニバースジャパンに選ばれただけあり、単に美しいだけではない品位を感じさせる女性だった。
 30分の予定を大幅に延長し、1時間もたっぷり楽しくお話を伺えたが、お二人にはまた必ず次回もどこかでお会いできたらと願っている。

(取材・文・写真:Maori Matsuura)


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