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『レッスン!』インタビュー

2007-07-18 更新

ピエール・デュレイン&ヤヤ・ダコスタ


レッスン!lesson
© MMVI NEW LINE PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:ギャガ・コミュニケーションズ powered by ヒューマックスシネマ

ピエール・デュレイン

 1950年、アイルランド人の父とフランス人の母の間に生まれる。
 中東とイギリスで育ち、14歳のときにイギリス・バーミンガムで社交ダンスを始め、21歳のときに英国ダンス教師協会の正会員となった。世界一のダンス大会と言われるイギリスの“ブラックプール”で4年連続優勝を果たし、社交ダンス界で数々の名誉ある賞を受賞。
 現在では、名門ジュリアード音楽院で講師を務めているほか、社交ダンス教室を数多く経営し、そこで教えている。
 また今回映画化されたように、ニューヨーク市の公立学校の課外授業プログラムにダンス教室を設け、毎年約7500名の子供たちを指導している。


ヤヤ・ダコスタ

 1982年、ニューヨークのハーレム生まれ。
 テレビ番組「America's Next Top Model」で決勝まで残り注目を集める。
 その他に数本のテレビ番組に出演し、アイザック・ミズラヒ監督がインターネット上で公開した短編映画『Super Model Hero』に出演。
 アメリカの名門校、ブラウン大学で国際政治学とアフリカン・スタディを専攻し、国連職員を目指していた。
 『レッスン!』が長編映画デビューとなり、ジョン・セイルス監督の『Honeydripper』(07)などに出演している。



 落ちこぼれが集まるニューヨークの高校に、浮世離れした紳士ピエール・デュレインがやって来た。音楽といえばHIP HOPしか知らない生徒たちに、無謀にも社交ダンスを教えようとするピエール。社交ダンスと共に、人生において大切なものを若者たちに伝えようとした実在するダンサーがモデルの学園ドラマ『レッスン!』。
 そのモデルとなった世界的社交ダンサー、ピエール・デュレインと、本作が長編映画デビューとなった美しきヒロイン、ヤヤ・ダコスタが揃って来日。お二人のチャーミングな人柄に魅了されるインタビューだった。


ピエールさんはもともとヨーロッパご出身ですが、ニューヨークに住もうと思われたきっかけをお教えください。

ピエール・デュレイン: ニューヨークに住み始めたのは全く偶然のことだった。当時はイギリスに住んでいたんだが、カリブ海を周遊する船で働いていて、6ヵ月ほどのクルーズがあった後に降り立った場所がニューヨークでね。イギリスに急いで帰ることもないので、2週間ばかり休暇を過ごそうと思ったわけだが、気がついたら30年近く経ってしまっていた(笑)。
 当時私は28歳で、アメリカは素晴らしい国だが、中でもニューヨークは本当に特別な特別な場所で、それは誰にとってもそうだと思うが、特に若ければ一層魅力的な街なんだ。アートに造詣が深ければ一層そうだね。たまたま仕事のオファーがあったので、3ヵ月居てみようかなと思い、その間にベッドを買い、椅子を買い……している内にそのまま居ついてしまったわけだが、一番の理由はニューヨークに恋したということだね。


ヤヤさんはこの映画に出演するにあたり、どのようなオーディションを受けたのですか? 撮影前に、どのくらいダンスのトレーニングをやりましたか?

ヤヤ・ダコスタ: まず、オーディションが行われたのはニューヨークで、当時私はさまざまなプロジェクトのオーディションを受けていたんだけど、この作品に関してはオーディションを受け始めたのが遅くて、生徒役で受けたほとんどの人たちはあるシーンの台詞を与えられて、個別にオーディションを受けた後、みんなで集まってダンスのオーディションもあったらしいわ。パートナーと組まされてどういうダンスが踊れるか見せたようなんだけど、私は参加したのが遅かったので、それはやっていないの。私が受けたオーディションは、1回目と2回目はあるシーンを一人で演じて、ダンスも音楽をかけられてフリースタイルで踊ってみせるというものだったわ。3回目に、ここにいらっしゃるデュレイン先生のスタジオに行って、15分間、タンゴとスウィングとサルサを教わり、その後、トロントからやって来たリズ・フリードランダー監督にその15分間で何を学んだかをお見せし、そこですぐに決まったの。

ピエール・デュレイン: 彼女は本当に素晴らしい生徒だった(笑)。

ヤヤ・ダコスタ: ありがとう(笑)。それで、トロントに行って他の人たちと合流したの。そこで“ピエール・デュレイン・キャンプ”に入り(笑)、4週間集中的にダンスのトレーニングを受けたわ。ご覧になったように、全員が全部のダンスを踊るシーンはないんだけど、みんな全てのダンスを学んでいるの。私の役であるラレッタがタンゴを踊るシーンは映画の中にはないけど、私も踊れるようになったのよ(笑)!


ピエールさんがモデルの役をアントニオ・バンデラスさんが演じていらっしゃいますが、バンデラスさんがご自身を演じられると聞いたときの感想は? 実際に彼の演技をご覧になっていかがでしたか?

ピエール・デュレイン: 「Oh, wow ...! アント……!?」が、私の最初のリアクションだったよ(笑)。最後のダンス大会シーンで、私は審査員の一人としてカメオ出演しているんだが、あのシーンはトロントで撮影したんだ。撮影最後の10日間は、監督とプロデューサーのダイアン・ナバトフと一緒にモニターの前に座らせていただいて、彼女たちが「いいわ!」とか「ストップ!」とか言うのを見ていたよ(笑)。そのとき撮影していたのが、ヤヤ演じるラレッタがダンスホールの袖で一人待っているところにパートナーのロックが遅れてやって来て、アントニオ演じるピエール・デュレインとやりとりをするシーンだった。ピエールがロックの遅刻を黙って許し、その肩に自分のジャケットをかけてやるんだが、その場面は今思い出すだけでも泣けてくるし、そのとき私は本当に涙を流していた。何かすごく胸を打つものを感じたね。本当に素晴らしかった。


ヤヤさん、バンデラスさんと共演した感想は?

ヤヤ・ダコスタ: アントニオはとっても素晴らしい先生だったわ。もちろん、映画でも先生を演じていて素晴らしい演技を見せてくださったけど、セットの外でも彼は私たちの先生だった。役を作るということに関してもそうだし、現場でどういうふうにふるまったらいいのかも教えてくださったわ。若い人たちが多い現場だったから、ときにはちょっとクレイジーになりがちなときもあって、彼はみんなと一緒に楽しむこともできるんだけど、プロにならなければいけない瞬間にはきちんと切り替えをしていたので、その姿を見ているだけで勉強になったの。一緒にいてすごく楽しいし、学ぶところもたくさんある素晴らしい俳優さんよ。


ヤヤさんはおそらく社交ダンスは初めてだったと思いますが、やってみていかがでしたか?

ヤヤ・ダコスタ: 社交ダンスを学ぶというのは素晴らしい経験だったわ。先生も素晴らしかったから……って、いま隣に座っているから言うわけじゃなくて(笑)、本当に素晴らしい先生なの。それはご自身でも良く分かっていらっしゃると思う。私自身は社交ダンスを習うのがすごく楽しみだったけど、もしかしたら、一緒に出演した子たちの中には当初、それほど興奮を覚えていなかった人もいると思う。でも、ピエールに会ったらそんな思いはすぐに消えてしまって、みんなすごく楽しんでいたわ。彼は情熱の塊で、その情熱は決して衰えないし、一緒にいるとそれが伝染するような感じなの。
 おっしゃるように私自身、社交ダンスは初めてだった。モダン・バレエやジャズ・ダンスはやったことがあったけど。だから、新たに社交ダンスを学ぶのはとてもワクワクしたわ。特に、社交ダンスってパートナーがいるスタイルよね? しかも、相手は若い男の子なわけで(笑)。私は本当はリードするほうが好きなたちなので、フォローするということを学ぶ、しかもとても優雅な形で相手についていくというのを学ぶのは、とても興味深い経験だったわ。


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ピエールさん、HIP HOPと社交ダンスを融合させたダンスがとても斬新でしたが、どう思われましたか?

ピエール・デュレイン: HIP HOPと社交ダンスの融合はとても良いアイデアだと思ったね。それによって、より若い人たちの心を捉えることができるからね。
 ただ、実を言うと、私自身のダンス・プログラムの中でも、クラスの最後の5分間は同じようなことをやっているんだ。全員でライン・ダンスをさせるんだよ。4~8くらいのステップがあって、それを全員で踊るんだけど、そのときにかけるのがHIP HOP系の今流行っている音楽なんだ。これは最後にあげるご褒美、甘いお菓子のようなものだよ。「よく頑張ったから、最後は自由に踊っていいよ」ということなんだ。これが私の子どもたちにダンスを教える際のメソッドだ。
 だから、今回の映画で、社交ダンスにHIP HOPを融合させたことには敬意を覚えるし、大変気に入ってもいる。正しいやり方だったと思っているよ。


ピエールさん、実話が基になっているということですが、映画化するにあたって、エンターテインメント性も必要ですからフィクションの部分も多いと思います。どのくらい実話の部分があるのでしょうか?

ピエール・デュレイン: この映画は私の人生に基づいているのではなく、インスパイアされたもので、例えば私は主義として自転車は乗らない(笑)。でも、映画の中のデュレインは乗っている。ニューヨークでは鍵をかけていない物は盗まれる。特に「誰、こいつ?」と疑いの目で見られているときにはね。ところが、人々に受け入れられた後は、盗まれた物も素敵にカスタマイズされて戻ってくるというわけで、これこそ映画的に作られたエピソードの良い例だと思うよ。
 普段の私だが、映画の中でのように、子どもたちを前にしても服装はいつもこうで、ジーンズは1本も持っていない(笑)。今の子どもたちは、立ち上がれば脱げそうなヒップハングのズボンだとか(笑)、カジュアルな服装をしている中で、私はいつもきちんとシャツを着てネクタイを締めたスーツ姿でいるし、英語も訛りがあるヘンなヤツで(笑)、しかも「社交ダンスを教えに来た」なんていうと、子どもたちは間違いなく「誰だよ、こいつ?」という反応を見せる。そこで私にとってチャレンジとなるのは、いかに彼らと遊べるかということなんだね。子どもたちと一緒に遊んでふざけるというのは、私のような年配の大人がやると、かなり滑稽にも見えるものだ。でも私はそれを、ポジティブな滑稽さに変えて、また、ダンスを学んでもらうときにも楽しい経験に変えるようにしている。
 今回も、若い役者たちと4週間のダンス・トレーニングに入ったときには、映画で描かれている状況とほとんど一緒だったね。ヤヤとは先にニューヨークで会っていたのでお互いのことは知っていたが、集められた他のティーンエイジャーたちは、そういうキャラクターが求められたわけだが、いわゆるストリート・ダンサー系の子たちで、普段の格好もまさに立ち上がれば脱げそうなズボンをはいていた(笑)。とても良い子たちばかりだったが、やっぱりティーンエイジャーなので、私がそこに現れて社交ダンスを教えようというときはまさに、「やれやれ、誰だよ、こいつ?」状態だった(笑)。だから、この映画で見られることというのは、彼らの反応も含めて、私が実人生で体験している状況をそのまま描いていると言っても過言じゃない。
 私はダンス・プログラムによって子どもたちをある旅に連れていこうとしているんだが、同じことを今回出演してくれたティーンエイジャーたちにも経験してもらった。子どもたちに教えるのと同じように、パートナーをレディーとジェントルマンとして扱うことや、「プリーズ」「サンキュー」という言葉を使うようにするとか、パートナーが交替したときには必ず「こんにちは、パートナー」と挨拶するということなどを教えたんだ。そうした私の実体験がこの映画には盛り込まれていると言えるね。


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本作では若者たちが大勢登場しますが、ヤヤさんはご自身との共通点と違う点をお聞かせ願えますか? ピエールさんもかつては若者だったと思いますが(笑)、ご自身の時代の若者たちとどんな点が違いますか?

ヤヤ・ダコスタ: ラレッタのキャラクターを、私は本当に気に入っているの。ただ、バックグラウンドはかなり違っているわ。ニューヨーク育ちだというのは一緒だけど、彼女にはお父さんがいないし、お母さんは大変な仕事に就いているので、ラレッタは一人で兄弟の面倒を看ていて、勉強も一生懸命やってはいるんだけど、学校自体があまり良い所とは言えないわけよね。私もハーレム育ちなので安全な環境とは言えないかもしれないけど、家には両親がいるし、私は支援プログラムのおかげでとても良い学校に入れてもらえたので、その点ではラレッタとはかなり違うわ。だから、この役を演じるにあたっては、公立学校に通っていた中学時代のことを思い出すようにしたの。私よりも大変な環境にいた友人たちや近所の子どもたちのことをね。私は恵まれた生活をしているので、この脚本を理解するには、普段はありがたみも感じずに受け止めていたことを改めて見直さなければいけなかったわ。だから、ラレッタとは似ているというよりは違うと感じたけど、だからこそ、演じていてエキサイティングだった。
 一番似ていたところは、私はダンスが大好きで、ラレッタもダンスに対する愛を見出していくわよね? そうしたダンスに対する情熱が、私たちを一番リアルにつなぐものだったと思うわ。

ピエール・デュレイン: 彼女の話を聞きながら考えていたんだが、およそ45年前の60年代前半が私の青春時代だった。私は英国で育ち、20歳の頃からロンドンにいたんだが、当時はビートルズとローリング・ストーンズが人気で、シックな子たちはビートルズ派、バッド・ボーイズたちはストーンズ派で、私はグッド・ボーイズの一員だったので(笑)、ビートルズ派だった。
 もちろん、当時の英国でもそれなりに問題はあった。今は世の中全体がよりタフになっているかもしれないが、ティーンが抱える問題というのはやっぱり、昔も今もそんなに変わらないと思うね。人生の中で自分探しを始める時期だし、親のもとから飛び立とうと翼を動かし始める頃でもあるわけだ。ただ、昔に比べて、今は子どもたちにとって大変な時代ではあると思う。どこに行っても、セックス絡みの情報があらゆる形で目に飛び込んでくるからね。コカ・コーラやチョコレートを買いにちょっとお店に入っただけでも、新聞や雑誌で肌を露出したモデルの写真が目に留まる。ローティーンの子たちの目にそれがどう映るんだろうかと考えてしまうこともままあるよ。そう考えると、今は大人になるのが早すぎるという気がしてならない。彼らはそのことをたぶん、頭では理解できていないだろう。やはりそれが、私の時代とは違っているところだね。
 そこで!、社交ダンスだ(笑)。楽しみながらも、レディーに対して敬意をもって接することを学べば、普段の生活でも応用できるんだよ。私はヤヤと同じく幸運なことに、素晴らしい両親がいて、私や姉妹をちゃんと育ててくれたし、良い学校にも通わせてくれた。だから、ドラッグを求めて町を徘徊するようなこともなく、人生をより良く生きるすべを学ぶことができたんだ。ドラッグは今ほどは手に入らなかったから、今のほうがより大きな問題になっているとは思うけどね。


だからこそ、ピエールさんは子どもたちにダンスを教えるようになったのですね?

ピエール・デュレイン: 私はダンスでビジネスをしようと考えたわけではないし、“子どもたちに教えなければ!”という強い想いがあったわけでもない。ただ、もともと子どもは大好きなんだ。私は結婚していないし、自分の子どももいないんだが、私のダンス・プログラムを通して何千人という子どもたちに出会うことができた。人はある程度年齢を重ねていくと、社会に何か返したいと思うものだ。私は大変幸運なことに良い生活ができて、受けた恩恵を社会に返したいと思ったときに、私が出来るのは社交ダンスだけだったんだよ。ティーンエイジャーのときに社交ダンスに出合ったおかげで、自分に対する自信を得られたし、より良い人生を送ることもできたと思っている。だから、今の若い人たちにも同じようにポジティブな影響を与えることができるのではないかと思って始めてみたら、まさにそうだったんだ。


最後に、これから映画をご覧になる方々に向けて、メッセージをお願いいたします。

ヤヤ・ダコスタ: コンニチハ、私の名前はヤヤ・ダコスタよ。そして、こちらは……。

ピエール・デュレイン: ピエール・デュレイン! 社交ダンスのダンサーだ。

ヤヤ・ダコスタ: この素晴らしい映画『レッスン!』をご紹介できて、とても興奮しているわ。

ピエール・デュレイン: そう!

ヤヤ・ダコスタ: 撮影はとても楽しかったし、観ていても楽しい映画よ。アメリカでは映画のエンディングでみんなが立ち上がって踊り出したの。だから、日本でも同じことが起きるとうれしいわ。映画を楽しんでね。

ピエール・デュレイン: また、私にとってはこのことを皆さんにお知らせできるのは大変な喜びだし、非常に光栄なことだとも感じているが、私の役を何とアントニオ・バンデラスが演じてくれているんだ。それに、ここにいるヤヤにワルツを教えることができたのも大きな喜びだった。もちろん、他の若者たちも同様だよ。彼らたちと一緒に仕事ができたのは、本当に素晴らしい経験だった。どうか家から出て、ダンスを習いに行き、その喜びを味わっていただきたい。どうもありがとう。

ヤヤ・ダコスタ: ドモアリガトゴザイマス。エンジョイ(笑)!


ファクトリー・ティータイム

 とにかく、明るく陽気でチャーミングなキャラクターのピエール・デュレインさん。英語、フランス語、アラビア語を含め、5ヵ国語が話せるということで、ちょっとあまり耳にしたことのない不思議なアクセントの英語がまたキュート! 初対面でも人を引き込む独特の話術と魅力をもった稀有な人物であることが分かった。この日もまさしく紳士の出で立ちで、映画もそのエッセンスを伝えているように、この方がニューヨークのキッズたちと接している姿を想像するだけで楽しい気持ちになる。
 ビロードのような肌をもったヤヤの美しさにも目を奪われた。話しぶりも聡明な女性で、将来は素敵な女優さんに成長していくのではないだろうか。
 このお二人がダンスをする姿、見たかった~!

(取材・文・写真:Maori Matsuura)





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