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『旅立つ息子へ』「LITALICO発達ナビ」コラボ オンライン座談会

2021-03-15 更新

牟田暁子(LITALICO発達ナビ編集長)
田中康雄(北海道大学名誉教授/児童精神科医)
橋 謙太(NPO法人ファザーリング・ジャパン メインマンプロジェクト・リーダー)
※全員リモート参加

旅立つ息子へnocallnolife 配給:ロングライド
3月26日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
©2020 Spiro Films LTD.

 2020年カンヌ国際映画祭など世界中の映画祭に正式出品され観客を感動で包んだニル・ベルグマン監督最新作『旅立つ息子へ』が3月26日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開となる。

 自閉症スペクトラムを抱える息子を全力で守る父と、父の愛を受けとめて心優しい青年に成長した息子。世界中で共感と感動の涙がこぼれた、実話を基にした感動作。監督はイスラエルを代表する巨匠ニル・ベルグマン。東京国際映画祭史上初にして唯一の二度のグランプリ受賞の快挙を果たし、本作では国内で最も有名な映画評論家から、是枝裕和監督の作品と並べられるほど高い評価を得ている。

 自閉症スペクトラムを抱える息子のため、キャリアを捨て子育てにすべてを捧げてきた本作の父親の姿は、当事者家族が抱えている子育ての悩みや葛藤、そして自身の人生について、改めて考えるきっかけを問いかけてくれる。そこで、発達が気になる子どもの保護者向けポータルサイト「LITALICO発達ナビ」(https://h-navi.jp/ 外部サイト)とコラボし、読者から事前に募ったお悩み(362件アンケート回答あり)について答えながら、映画について語り合った。


 まず本作の感想について、橋氏は「高校3年生の娘が自閉症スペクトラムですが、単純に映画として面白かった。イスラエル映画は初。抑えた演出で、ロードムービーでいうと『セントラル・ステーション』(98)や『パリ、テキサス』(84)など思い出した。チャップリンの『キッド』(1921)もキーとして使っていたのが印象的」と語る。田中氏は「息子に対する父親の心象風景を描く映画は、日本では作る機会が少ないのではないかと思った。実際の生活ではなかなか表現できないけど、共感できる場面はお父さんにとっては多いのではないか。また、母親の苦悩も随所にあぶり出されていることも強く感じ取れた」と振り返る。牟田氏は「障がいのある保護者と子どもがテーマで、父親がメインというのが日本に住んでいる自分にとっては新しく感じた。ぜひ、夫婦ともにこの映画をみてお互いのことやキャリアについて考えていただけたらと思った」とコメント。

 事前にLITALICO発達ナビの読者から募ったアンケートのなかで、まずは「子育ての悩み」について。橋氏は「子どもが何十回も同じことを聞いてくる。鬱陶しくなるけども、それは本人が不安だから聞いてくる。見通しを立てて着地点を見つけて話してあげることが大事だと思う」と自身の経験から語り、牟田氏も「娘も伝えられないフラストレーションを持っているのを感じる。アウトプットの手段を課題として考えている」とコメント。田中氏は「こちらがどれだけ想像できるか。そこにポジティブな感情を持つことが大事。お子様が小さいほど、言いたいことを理解するのに時間がかかる。創意工夫をしながらそういった時間を取ることが大切」と分析。

 劇中では、息子の将来を心配し、妻が施設に入れようとする場面が描かれている。今からできる「子どもの自立」について、田中氏は「家族が持っている自立のイメージがあり、考えながらサポートする。自立をゴールにすると、途中経過が辛くなってしまう。今できることを重ねる果てに、目的地があると考えれば良いのではないか。映画でも、親が考えている自立のゴールと本人が目指す生活には違いがある。こちらが設計図を書いたものと、本人との思いのズレを修正しながら、本人が望んでいくものにしていくことの大切さを感じた」と振り返る。牟田氏も「将来のことを逆算して子どものためを思ってやってしまうが、先のことのために我慢をさせすぎるのもどうかとハッと気づいた」とコメント。橋氏は「4月から娘が就労する。自立はお子様の状況でも違う。まずは目の前の子どもが楽しんで生きているか。子育てしていて大事にしていることが、結果として娘の人生の糧になると思っている。そういったことを考えて先を見つめること」と語った。

 次にコロナ禍での子育ての悩みについて。まず橋氏は「友達が大好きなので学校に行けずダメージを受けて、孤立を感じていた。学校が再開しても週末は友達と遊べないので、ストレスを感じていたと思う。でも、家族で散歩をしたり、親子関係は密になり良くなった」と話すと、牟田氏も「息子はリモート授業になったので育休中以来の3食一緒になって。働く姿を見て、頑張っていると思ったのか親子関係が良くなった」とポジティブな面についてコメント。続けてその一方で、「周りだと親が隔離入院をして、一週間以上、家族と離れることに。子どもの感染も怖いけど、障がいがある家族で自分が感染してしまった時の不安も改めて感じた」と振り返る。田中氏は「感染予防で神経を使うこともある。ストレス発散がなくなって活動範囲が狭まってしまったことも。親自身の生活のリズムも大変に。学校がなくてホッとしているお子さんもいるかと思うが、あまり長いと退屈になってきたり。入学の最初の友達作りのチャンスがなくなり、スタートがうまくいかず影響が大きかったのでは」とコメント。

 映画では、売れっ子グラフィックデザイナーとして活躍していた父親が、その道を諦め子育てに専念している。そこから、保護者のキャリアについてのテーマに。橋氏は「日本はジェンダー・ギャップ指数のラングキングが非常に低い。障がい者を抱えるか否かよりも、女性の社会的地位を上げていくということがまず先だと思う。親って二人いるのに常にお母さんで、日本の中の価値観はすごくモヤモヤする。イスラエルは女性も兵役があり、男女平等が進んでいる。映画を観てお父さんが子育てする姿は納得できて、日本でもこれが実現するといいなと思った」と語ると、牟田氏も「女性がフルタイムで働くのが当たり前でない。社会システムの参加のしにくさを改善していくことで、子育ての負担や障がいの人の働くことにもつながっていくのではないか」とコメント。田中氏は「世の中の価値観、考え方が変化しないと難しい。女性に対するこの国の根幹的な問題や、育児休暇が取りにくい男性側の課題なども感じた」と語った。

 最後に、今後どういった社会になるといいか、そしてこれから生きる未来へのヒントについて、「男女、人種、障がい者への差別は全部地続き。誰でもバイアスは持っているから、差別意識を自分はもっていないか、と意識することが大切。それが子どもが過ごしやすい社会へとつながる。夫婦間でも、母だからやらなければ、と思うこともあるけど、父親だってやれる。お母さんが笑顔になれば、家族へと連鎖してみんな笑顔に。支え合うことが大切」と語ると、牟田氏も「親が面倒を見た方がいいのではないかと考えるけども、人の手を借りることで、子どもも保護者以外の人を信頼できて、いろいろな人に手を借りられるような子になるのではないかと。親も頑張りすぎて倒れてしまうと家族にとって良くない。たくさん社会資源を使って欲しいし、使えるような社会になって欲しい」とコメント。田中氏は「この映画では息子がいることで、父親としての役割を演じさせている。父親としての役割から旅立ち、やがて自分自身の人生を生きていくように感じた。いろいろな問題もあるけど、一生懸命育ち合ってきた親子がどういうふうに発展していくのか、成長が垣間見れる。子育てで出口がみえない状況にある方も、この映画からヒントを感じとって欲しい」と語る。

 映画を通して子育て、夫婦間の関係と様々な意見が活発に交わり盛り上がる座談会となった。映画配給ロングライドのyoutubeでアーカイブ視聴可能なので、ぜひ映画の鑑賞とあわせてトークの全貌をチェック!


【『旅立つ息子へ』×LITALICO発達ナビ共同企画】当事者家族の子育ての悩み、親のキャリアと未来へのヒントyoutube URL


メインマンプロジェクト

 パパたちが発達障がい児を理解し、関わり、彼ら彼女らが生きやすく、楽しく過ごせる社会を作り出す。パパたちが、発達障がい児の『メインマン』(親友)になれば、その先には誰もが優しく、笑顔になれる、ユニバーサルな社会が現れる。そんな笑ってる子ども、パパ、ママ、家族を増やしていけないかな? 増やしていこうよ! それが「メイン・プロジェクト」の目的です。
 (https://bit.ly/37NOmlx 外部サイト)



(オフィシャル素材提供)



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