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『私は絶対許さない』単独インタビュー

2018-04-02 更新

佐野史郎


私は絶対許さないwatashihazettaiyurusanai
© 「私は絶対許さない」製作委員会
制作・配給:緑鐵

佐野史郎

 1955年生。島根県出身。日本を代表する個性派俳優。
 1975年「劇団シェークスピアシアター」の設立メンバーとして活躍後、唐 十郎氏率いる「状況劇場」に参加。
 92年TVドラマ「ずっとあなたが好きでした」でマザコン青年・桂田冬彦役を演じ、一躍人気俳優に。
 代表作に『夢みるように眠りたい』(86年)、『ゴジラ2000ミレニアム』(99年)、『完全なる飼育 赤い殺意』(04)、『はやぶさ/HAYABUSA』(11年)、『なりゆき魂』(17年)など。



 性犯罪被害者のトラウマ心理の実話を、完全主観撮影で映像化した『私は絶対許さない』が4月7日(土)より東京・テアトル新宿ほかにて全国で順次公開される。劇中、主人公の葉子と結婚し、籠の中の鳥のような窮屈な生活に閉じ込める夫・雪村役を演じた佐野史郎に、作品について話を聞いた。


 本作は、雪村葉子の手記『私は絶対許さない 15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由』を原作に、精神科医であり、映画監督としては『受験のシンデレラ』『「わたし」の人生』などを発表している和田秀樹監督がメガホンを取った。主人公の目線ですべてを撮影するという“完全主観撮影”をとっており、少女時代の葉子と大人になった葉子が対峙するという場面も用意されている。脚本は『四十九日のレシピ』の黒沢久子が担当している。

namaenonaionnatachi 15歳の元日に集団による性的暴行を受け、加害者への復讐心だけを胸に抱いて生きてきた東北の田舎出身の葉子が主人公。原作ではストレートな感情を元に赤裸々に告白した手記が綴られている。そんな葉子の夫役を務めた佐野は、役へのアプローチについて、「(2人の関係が)最初はどうやったら成立するんだろうって途方にくれました」と話し始め、雪村が葉子に向ける言葉についても「こういうことを言う人物って、いったいどんな人なんだろう。こういう人物が現実にいたら、ひいちゃうなって(苦笑)」と脚本を読んだ時の感想を語った。

namaenonaionnatachi 続けて、「台本はあくまでも台本だから、台本に書かれてある言葉が誰に向かって書かれているのかを常に考えるようにしています。シナリオのト書きやセリフは俳優だけに向けて書かれているのではなく、撮影に関わる全ての人に内容を理解してもらうよう書かれてもあるのだと思います。なので俳優は、字面をそのまま鵜呑みにすると、セリフや所作で心情説明や状況説明をし始めてしまい、本来描かれている世界に生身で生きている人の状態から逸れてしまいがちなんです。事実や登場人物の心情は決して書いてある通りだとは限らないと探りながら演じていました」と佐野は監督と現場で話し合いながら演じていたことを明かす。そんな苦悩もあって、心に響く芝居が生まれた。佐野は「主観として映っているものが、彼女にはそう見えたかもしれないけれど起こっていた現象はそれとは正反対かもしれない……」と話す。

 雪村の葉子に対するちょっと異常な愛し方に、25年前に佐野が一大ブームを起こした「ずっとあなたが好きだった」当時の“冬彦さん”を彷彿させるような場面もあり、話題を呼んでいる。

namaenonaionnatachi 葉子の手記では、15歳の時に突然男たちに拉致され、殴られ、暴行を加えられた様子を赤裸々に描いている。同じ女性ならば目を逸らしたくなるようなシーンもたくさんある。中でも傷付きボロボロになって帰宅した葉子に対する両親の無関心と暴力に驚かされる。怪我をしている葉子を心配するわけでもなく、ないがしろにするのだ。家族の葉子への対応はその後の葉子の生きざまに大きく関係してくる。佐野は「家族を演じていた3人(母親役の美保 純、父親役の友川カズキ、祖母役の白川和子)の演技が圧巻でしたね」と絶賛している。

 また、キーワードともなる「東北」を体現した三上 寛の存在が大きいともいう。「この国の、追いやられた歴史、隠蔽された歴史、まさに強姦されたともいうべき歴史の一面を持つ『東北』という言葉の響は、今一度、この列島に生きる人々に対して忘れてはならないことを突きつけているようにも感じます」と。「隆 大介さんも凄かった。この映画は登場する全ての女性に救いを与え、全ての男に鉄槌を振り下ろしていたことも印象に残りました」と感想を述べ、自身の演じた雪村については「監督の分身のつもりで演じました」と、撮影秘話を明かした。

namaenonaionnatachi 居場所のない葉子は、家を出て整形して風俗嬢となった。そんな葉子と知り合い、結婚する雪村を佐野が演じている。劇中では、雪村が葉子に美味しいものを次々と食べさせるシーンがあり、「雪村は、愛するがゆえに、ただ美味しいものを食べさせてあげたかっただけかもしれない。そこに被害者意識が生まれる葉子から観た雪村を演じるのは、ただ素直に演じるだけでは成立せず、実際に話している状態とは正反対の状態を表さなければならないので、葉子からの思い込みの主観を体現するのは大変だった」と佐野は特に難しかったというシーンについて話した。劇中に登場する料理の数々は、美食家である監督が自ら実際に通って食べているというものが用意されたそうだ。

namaenonaionnatachi 集団暴行を受ける少女時代の葉子を西川可奈子、家を出て整形で顔を変え、風俗嬢として働く葉子を平塚千瑛が演じている。2人の印象について、佐野は「西川さんとは直接の芝居のやり取りはなかったのですが、現場ではよく話しましたね。いろいろとよく考えていらっしゃる方だなという印象でした。それでいて真正面からぶつかるタイプの方」。平塚については「整形した後、声や話し方まで変わってしまうところにリアリティを与えるのは大変だったと思います」と、作品の構造が求めている水準の高さをあらためて感じたという。

 葉子が暴行を受けるシーンや両親の無関心と暴力、学校で周りから疎外されるシーンなど、心が痛む場面も多い。性犯罪の被害者にならないためには、どんなことに気をつければいいのだろうか。佐野は「興味を持たれないようにするとか、気配を消すとか、相手にかかわられないようにすることじゃないかな」と警鐘を鳴らす。「葉子がどのような苦しみを背負い、どのように生きたのか。性犯罪というものが、いったい彼女から何を奪い、そして何を与えたのか。多くの人が性犯罪について考える一つのきっかけとなることを、この作品は何よりも望んでいるのだと思います」。

 他の共演者には、美保 純、友川カズキ、白川和子、吉澤 健、三上 寛、奥野瑛太、川瀬陽太、南美希子、児島美ゆき、東てる美、隆 大介ら個性派の共演者が豪華に名前を連ねている。音楽は三枝成彰、主題歌は元SKE48の出口 陽の“迷宮”。同作はインドの『ノイダ国際映画祭』に出品され、審査員特別賞を受賞している。

 映画『私は絶対許さない』は、4月7日から東京・テアトル新宿、4月14日より名古屋・シネマスコーレ、4月28日(土)より大阪・第七藝術劇場ほか全国で順次公開。



(取材・文・写真:福住佐知子)



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