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インタビュー

トップページ > インタビュー > 『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』オフィシャル・インタビュー

『ドリス・ヴァン・ノッテン
ファブリックと花を愛する男』
オフィシャル・インタビュー

2018-01-21 更新

ライナー・ホルツェマー監督


ドリス・ヴァン・ノッテンdries
© 2016 Reiner Holxemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE
配給:アルバトロス・フィルム

ライナー・ホルツェマー監督

 ドイツ語圏のドキュメンタリー界を牽引するベテラン作家。1958年、ドイツ・ゲミュンデン生まれ。
 76~85年にかけてフリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルクで演劇、社会科学を学ぶ。82年にはHessian TV Awardにおいてドキュメンタリー作品『Wer sich nicht wehrt...』で最優秀新人監督賞を受賞。83年には自身の製作プロダクションを設立。これまでに長編、短編を合わせ30本以上の作品を発表してきた。日本でも07年に『マグナム・フォト 世界を変える写真家たち』(99)が公開されている。
 ドリス・ヴァン・ノッテンとの出会いは写真家ユルゲン・テラーのドキュメンタリー『Juergen Teller』(12・未)の撮影中。その時から3年がかりでドリスを説得し、本作の撮影に至った。現在はミュンヘンの美術館の長期改築プロジェクトなどを撮影中。



 世界のセレブリティやファッション・アイコンが愛して止まない孤高のファッションデザイナー“ドリス・ヴァン・ノッテン”。彼の初のドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が、2018年1月13日、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開がスタートし、ミニシアターランキングでも3位になるなど絶賛公開中だ。この度、ライナー・ホルツェマー監督のオフィシャル・インタビューが到着した。


監督は、2007年にも『リンチ1』というドキュメンタリーを撮っています。『インランド・エンパイア』の撮影でリンチの激しい側面が記録されていますが、普段の彼は静かなたたずまいで知られていて、今回のドキュメンタリーでもそうですよね。

 言いたいことはよく分かるよ。デヴィッドの場合、怒りをぶつけたりする相手は、彼をよく知っている人なんだ。カメラが回っていないところでは、笑顔で彼らに接している。もしかしたら、デヴィッドは観客に対して怒鳴ったり、怒ったりしているのかもしれない。ぶっきらぼうに見える時もあるけど、デヴィッドはいつも同じチームで仕事をしてる。みんな笑顔で戻ってくるんだ。


なぜドリス・ヴァン・ノッテンの映画を撮ろうと思ったのですか?

 ドリスは現在、ファッション界で最も興味深い人物のひとりだと思います。彼は独立して会社を立ち上げていますし、創作やデザインの面でも、唯一無二の人間だと思います。私から見ると、彼はファッション界のカリスマ。他のアーティストたちを見るように、ドリスのことを見たいと思いました。私は彼がどのように仕事をし、どんな作品を世に送り出し、どんなデザインを作り出すのか。その過程を見たかったのです。そしてその創作の源を見つけたかった。彼の背後には誰がいるのだろう? 舞台裏のストーリーは? アーティストとしての進化は? これが私のフォーカスだったのです。


きっかけを教えてください。

 私が最初にドリスに会ったのは、ユルゲン・テラーのドキュメンタリーを撮っているときでした。それが初対面で、私はすぐにドリスに心を奪われ、「この人の映画を作りたい」と思ったのです。同時に、彼が撮られることについてあまり快く思っていないことも分かったのです。とても慎重な人ですから。彼が、「よし、じゃあ映画を撮ろうじゃないか」と言ってくれるまで、じつに3年かかりましたよ(笑)。
dries いくつか引き受けてもらった理由はあったと思いますが、今までオファーを受けていたのと僕のオファーのコンセプトが違っていたからだと思う。僕はファッション界の人間ではなくて、いわゆるデザイナーやファッション関係者のドキュメンタリーをたくさん撮ってきたわけでもないし、ファッション界やそういった部分にしか興味のない人だと、デザイナーのコレクションのバックステージとか、そこで見られるドラマばかりに興味がいってしまう。そうじゃなくて、僕は彼のアーティスティックなアプローチに興味を持ったというのが、たぶん一番の理由だったんじゃないかと思う。ただ、仕事に集中したいというのがあって、どうしてもカメラがあるとチームの集中が切れ、気が散ってしまうんじゃないかということを心配していたから、まず僕が提案したのが、テスト撮影。3日かけて、自分の仕事のやり方を経験してもらって、それで物事が乱れるかどうかを判断してもらったんです。
 これがちょうど2015年のパリのコレクションを準備しているタイミングでした。そして、そのあと実はやる、やらないの話は一切していないんですね。このままいけそうだなとお互いに思って、特にやろうという言葉はなくそのまま進んでいったんです。


このドキュメンタリーはあなたの過去の作品とどのように異なりますか?

dries 私は他のアーティストを撮るのと同じやり方でドリスを撮りました。つまり、彼の今の仕事をとらえようとしたのです。他のアーティストの場合でも、私は被写体が行うことをすべて追いかけていましたから。それから、その人物の経歴を見ます。学歴やデザイナーとしての進化を。これまでと多くの類似点がありました。私は他のアーティストとドリスを同じように扱いました。でも後になって分かったのは、例えば写真家とその作品を追う方が簡単だということです。写真家は、ドキュメンタリーには自発性と挑戦が求められることをすでに知っていますから。
 もちろんファッション界も同じだと思う。だが、ファッションは多くの人たちに見せることが主体ですから。だから私がドリスを追いかけて気づいたのは、私自身がプロセスやコレクションの準備を見せることに興味があるという点です。ドリスはデザイナーとして、最後に完璧なイメージを見せるよう訓練されています。彼は完璧なデザインを見せたいのであり、プロセスを見せたいわけじゃない。プロセスは完成形ではないから。プロセスは必ずしも綺麗で美しいものじゃないし、プロセスの中では多くの試行錯誤がある。これは新鮮でした。私にとって、他のプロジェクトとは違っていました。


これはファッション映画でしょうか?

 ファッション映画だとは思っていないです。私が知っているファッション映画はバックステージのドラマとか、特定のデザインについてのものですから。この映画は、一人の人間について、一人の芸術家について、私が思うにとても感受性豊かな一人の人間についての作品です。リアルな一個人についてのリアルなドキュメンタリー。そしてドリスは自分の感情や仕事に対して極めて正直な人間でした。


長期にわたる撮影でしたが?

 コレクションを4回も追いかけるとなると、少しばかり退屈じゃないかと思われるかもしれないですね。毎回同じ手順を繰り返すわけですから。仮縫いがあってスタイリングがあって、それが延々繰り返される。でもドリスには毎回驚かされました。撮影に訪れると、毎回違うのです。仮縫いもスタイリングも毎回常に違うから、退屈なんて全くしなかったですね。それは私にとってとても重要なことでした。本当に素晴らしかったですね。
 そして、そう、ドリス……。さっきも言ったように、彼は多分私がこれまで会った人の中で、最も慎重な人間でした。彼はカメラに追いかけられることを好まない。発言の全てをマイクが拾って、それを録音されるのも嫌い。撮影される状態は、彼にとって大きな困難を伴うと、何度も私に言いました。カメラがあると少し無防備な感じがして、あまり快適じゃないと。でも、彼の不安をスクリーン上で見ることはないでしょう。それは最初に見たラッシュではっきりしました。彼は撮られるべきであり、私たちは一緒に仕事をするべきだと、私はずっと感じていました。だから彼の不安は画面の中に現れてはないと思います。


この映画の中でいちばん見せたかったものは何ですか?

 まず、ドリスがどういう人間かを見せたかったです。これが何より重要でした。ここにデザイナーがいる。彼の仕事を見る。コレクションを見る。でも私たちは彼の素顔についてはほとんど知らない。それが私にとって最も重要なことでした。この人間が何者であるのかを発見すること。そしてだからこそ、その人物にできるだけ密着して撮りたかったのです。私がドキュメンタリーを撮るときに掲げるゴールは、観客が映画を観たとき、その人物に個人的に会っているかのような印象を与えることなのです。


このプロジェクトをもう一度行うとしたら、どこを変えたいですか?

 我々は丸一年かけてドリスを撮りましたが、見逃したこともたくさんあるのです。365日、撮り続けることはできないですから。見逃したのは、仕事の細部ですね。彼が何かに苦悩しているときや、特定の服の問題の解決とか、そういうもの。もし、もう一度チャンスがあれば、そうしたことにもっとフォーカスしたいですね。


好きなシーンは?

dries 好きなシーンは、自宅でドリスが花瓶に花を生けて、彼のパートナーのパトリックが手に大きな枝を抱えてドアを通り抜けようとしているシーンです。とても素敵なシーンですね。何とかドアを通り抜けようと四苦八苦して。彼らは大邸宅に住んでいますが、あれほど大きな家でも枝が大きすぎるとドアを通り抜けるのは大変なんだってわかりますよ(笑)。


ストーリーの深みとプライバシーを追求する上で、どのようにバランスをとりましたか?

 私は特定の人物についてのドキュメンタリーを撮るとき、できるだけ親密な空間を維持しようと努めます。スタッフは最小限に留めます。一人で撮るときもあります。録音係と二人で臨むときも。それがカメラの前で人に不安を感じさせない最低限の人数ですね。カメラの前にいて、周りにそれ以上の人がいたら、いつも上手くいかなくなる。人数制限の厳守は仕事上の鉄則です。
dries そしてたくさん撮る。ミーティングがあるときは最初から最後まで撮る。スイッチをしょっちゅうオンにしたりオフにしたりして、こちらに注意を引きたくないですから。私がいることを忘れて欲しいのです。自分の存在をみんなが忘れてくれるときが、最高の瞬間です。
 ドリスの場合はそう簡単にはいかなかったけど(笑)。撮影が始まって30日経った後でも、彼は「カメラがあると、いつもちょっと混乱するんだ」とか「スイッチを切ってもらえないかな?」と言ってましたから。でも、彼も対処の仕方を学んだと思います。私を信頼してくれた。ドリスは非常にストレートな人間だと思います。彼はいつもおおらかというタイプの人ではないし、またやらなくちゃならない仕事について四六時中考えている本当に忙しい人です。でも彼は絶対にいい加減なことはしない。常にとても率直で正直。嫌なことがあれば、はっきり口にする。これはとても重要なことだと思います。


オペラ・ガルニエの舞台を撮影するのはいかがでしたか?

 ドリスはパリのオペラ・ガルニエでショーをしたいと考えていました。私は、「じゃあ、それは絶対に撮らなくちゃ」。とても特別な場所だし、またとない機会だから。彼は16年間も待ち続けたんです。大喜びしていました。私たちもとても喜びました。もちろん、この機会を見逃す手はない。だから映画に収めました。4番目のコレクションです。


編集でカットされた映像はどうしますか?

 我々は200時間近くの大量の映像を撮影しました。ひとつのプロジェクトでこれほど多くを撮ったことは今までありません。最終的にDVDに収録されるものもあるけど、残りは自分のアーカイブに収められることになると思います。100年後に誰かが、ドリス・ヴァン・ノッテンの当時の仕事について知りたいと思うかもしれないですから。


撮影前のイメージと、撮影後では彼の印象に違いがあったか?また、驚いた意外な一面などはあったか?

 本当に毎日彼と過ごすうちに毎日驚かされることがあった。特にアントワープの彼のアトリエを訪れている日々で、コレクションの初めは生地を見て考えたり、コンセプトから立ち上げていくわけだけど、その時に彼が持っているアイデアとか、彼がイメージする人物とか、そういうアイデアが毎日新しいものがそこにあって驚かされました。
 特に劇中出てくるメンズコレクションの白とチェックをちょっとだけのせてみたいなコンセプトからスタートしたコレクション、その部分を撮ってから2週間後にアトリエに行ったときに、突然前にはなかったマリリン・モンローとか唇とか、えび?みたいなデザインが置かれていて、突然どこから湧いて来たんだろう!?と驚きました。それほどまでにファッションについてのアイデアや空想、ファンタジーが常に彼の中では進展していっているんだなということには驚かされましたし、一年でコレクションを4回作っていく中で、一人のアーティストがこんなにもたくさんのアイデアを持てるんだということがもしかしたら最大の驚きかもしれません。


ドリスはプロフェッショナルな完璧主義者だが、そこはどう思いましたか?

dries 本当に完璧主義者だと思う。花のアレンジをしているシーンがありますが、あれを何時間もやりますし、ちょっと物を動かすのもミリ単位で動かしていたりしますし、それは服をデザインしているときも一緒なんですけど、僕はファッションに関わる映画を作ったことがなかったからあまり知識がなかったんですが、プライベートの中に発揮される完璧主義が、仕事の中でも発揮されているということが、非常に興味深かったですね。服を生地から作っていくときに、半ミリ単位で調整していきますし、それは正確を期する追及の仕方で、コントロールしたがるところもあって、それは自社のCEOでもあるし、どの選択に責任をもって、例えばショーであれば、照明であるとか、ここがどうとかすべての責任を取ります。お店でも外観をどうするか、内装をどうするか、家の中でも完璧主義者。
 スタッフにとっては、もうちょっとリラックスしたらと言われそうになるくらいの時もあるそうですが、完璧主義でなくてはいけないと思うんです。あれだけのクオリティを生み出すためにも。実はドリスの服をよく着ています。他のデザイナーの服をドリスの服を着てから着れなくなってしまって。それはすごくフィット感がいいし、彼の完璧主義なところが服を身に着けたときに感じられるんです。


完成した映画を観たドリスはどうでしたか?

 最初に見せたときは本当に緊張していて、見せたのが荒編?で完パケ版ではなかったので、今の尺より10分くらいあるバージョンを、結構近い席に座って観ていたんですが、観ているあいだ、声を掛けてくることもなくて、笑ってくれることもなくて、僕はとても緊張していました。観終わって、ドリスに「どう思いますか? あなたの肖像として正しいと思いますか?」と聞くと、「正直、今言うのは難しい」と。と言うのも、ドリス自身も初めてカメラの前に立ちそれが好きなほうではないので、“初めて自分の側面とか、性質とか性格とかっていうのがにじみ出ているのに直面しなくてはいけなかったから”という感じでした。
dries ただ、数日後に話をしたら、パートナーのパトリックやほかの仲のいい友人や、会社の人びとが、観てくれてすごく良かったと言ってくれて、特にパトリックがものすごく気に入ってくれていたんですね。
 そのあと数週間後に完パケ、映画を終わらせたんですが、話は一切しなかったそうなんです。その後にただ、ドリスの方からアントワープでプライベート・スクリーニングを主催してくれて、その時に久しぶりに作品について話して、その上映前にドリスがスピーチで、監督にすごく感謝しているということと、作品が好きで気に入っているということ、そこに映し出されているのは間違いなく自分であると言ってくれて、私にとっては超エモーショナルな瞬間でした。控えめな彼は普段から自分の事を話すタイプではないから、そういう事を話してくれているということで、本当に気に入ってくれているというのがひしひしと伝わってきて。

 それがちょうど1年前のことだったんだけど、未だに二つ三つ見られるのが恥ずかしい、プライベートなシーンがあって、あのシーンって外せないの?って聞かれたけど、僕たちはそれは外せませんと言ったんですね。だって、プロフェッショナルなデザイナーであるだけではなくて、そしてこのファッション界のマシンとして機能している彼を捉えるだけでなく、他の誰もが持っている感情をこの素晴らしい人も持っているんだというところも見せるということが重要だと思っていたから。だから、そういうシーンに対する気恥ずかしさは残っているものの、作品は気に入ってくれているみたいですし、パトリックと共にこの作品をずっと応援してくれているし、今までの自分の作品と人生というものをきちんとリアルに映し出している作品だと言ってくれているんです。



(オフィシャル素材提供)


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